<第二話・先輩の役目>

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<第二話・先輩の役目>

 去年全国の手前まで行ったとはいえ。まだまだ星ヶ丘中サッカー部の知名度はさほど高くはない。個人技という意味では、全国の選手達にまだまだ遠く及ばない現状にある。それを、どうにか連係プレーと切り替えの早さでカバーしてのしあがってきたというだけの話なのだ。  その要となったのが、操も尊敬する高松英知キャプテンである。頭脳派だが、それを気取らないムードメーカー。彼の三枚目ぶりで救われたことは少なくないはずである。特に、人気のあるスポーツの部活でありがちなのがレギュラー争いで、どうしてもレギュラーに入れるメンバーと入れないメンバーの間に溝ができがちなのだが――彼はそれを上手に埋めてカバーすることにも長けているのだ。  去年試合で勝ち抜けたのも、チームの雰囲気が悪くならないのも、彼の功績と呼んで過言でないところだろう。個人技のレベルが低くても人数が少なめでも、優秀な司令塔が入ればチームのカラーはがらりと変わるのだ。それを体現する優秀な指揮官ぶりに、舌を撒いた者は少なくないはずである。  特に彼は、敵チームの死角を突くのが格段にうまい。思いがけないところから魔法のようにパスが通る、と誉めていたのは去年卒業した先代キャプテンだった。英知がその後を引き継ぐことに、誰も異論はなかったことだろう。  そして、そんな彼は落ち込んでるメンバーを呼んで、カフェで好きなものを奢ってやり、相談に乗るということをよくしてくれるのだが。きっと今日のコレは完全に誤算だっただろうな、と操は隣の席をちらりと見て思う。 「一度食べてみたかったんです……!ミランバのスペシャルデラックスハイパースーパーミラクルパフェ……!」  名前長ぇ!と操は心の中で即座に突っ込んだ。いや、突っ込みどころはそれだけではないのだが。  目をキラキラさせながら目の前を見つめる大食いの代名詞、一年生の亮馬。女の子のように愛らしくて大きな眼が見つめる先には、名前負けしない巨大なパフェが存在する。下手をしたら、真正面に座っている英知キャプテンからは亮馬の顔が完全に隠れてしまっているのでは、と疑うほどの。  ガラスの巨大な器に盛られた、それはもう立派なソフトクリーム。そこに、カラフルな四色のアイスクリームが均等にどどーんと並べられており、網目模様のメロンがこれでどうだ!という勢いででっかく突き刺さっている。そのサイズも十分立派だが、さらにはウサミミの林檎が二つばかりででーんと鎮座し、てっぺんのクリームには可愛らしい赤いサクランボがちょこんと座って主張しているのだった。  きっと中を崩していけば、さらにコーンフレークやらフルーツやらの塊が出てくるのだろう。何でも、ミランバの裏メニューというやつらしい。  ちなみに値段は――千五百円。このサイズにしては安いと思うべきか、無駄遣いにも程があると主張するべきか、はたまたよくぞこれに一人で挑もうと考えたなと挑戦者を褒め称えるべきなのか。
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