<第二話・先輩の役目>

2/4
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/128ページ
「は、はは……味わって食べろよ、亮馬……うん」 「キャプテン、気を確かに。俺も知りませんでしたけど、こんな裏メニューあるなんて」 「だな、知ってたら来る場所を選んだわな……」  乾いた声で笑うしかない英知に、思わず合掌する操。まだ入部して間もないはずなのだが、 サッカー部では既にある暗黙の了解が浸透しつつあるのだった。  つまり。一年生の風見亮馬にメシを奢る時は全力で場所を選び、財布と相談するべし、である。ほんと、この少年は今までどうやって生活してきたのだろうと疑問に思ってしまう。さぞかし親御さんは食費の捻出に苦慮しているに違いない。 「おーいしー……!先輩、ありがとうございます!」  まあ、心底美味しそうにクリームを崩してる後輩を見ていると、なんかもう“奢ってもらっておいてそんなバカ高くて胸焼けしそうなものを頼むな!”なんて非情なことは言えなくなるわけだが。  食べてるものと量はえげつないとはいえ、彼はけしてマナーが悪いわけではない。食べ方そのものは至って上品だ。まあ、今にも土砂崩れしそうな巨大パフェを前にして、どこまでその品の良さが貫き通せるかは怪しいものだが。 「……まあ、可愛い後輩が喜んでくれるのはいいことだ、うん」  やがて諦めたのか、苦笑気味に言う英知。 「お前ももうちょっとハメ外したもの頼んで良かったんだぞ。バニラアイスなんて小さいもんじゃなくて良かったのに」 「あ、いや……流石に申し訳ないですよ。バニラアイス美味しいし、これで十分ですって」  そんな操が食べてるのは、小降りなバニラアイスである。値段はスペシャルデラックス(以下略)パフェとは比較にならないくらい安い。が、何も謙遜だけでこれを選んだわけではないのだ。実際ミランバのアイスクリームは全体的にレベルが高い。よく、市販のアイスのレベルはバニラを食べ比べすればはっきりする、なんて言う者がいるが。まさにミランバはその通りで、バニラの美味さには定評があるのである。  シンプルなクリーム色がかったアイスは、一口食べた途端いきすぎない爽やかな甘さが舌全体に広がってとろけていく。バニラの味と同時にしっかりと牛乳の旨味も残っていて最高の一言に尽きるのだ。他のレストランやカフェでもアイスは食べたが、バニラアイスでいうならミランバに勝るところはそう多くないと思っているほどである。
/128ページ

最初のコメントを投稿しよう!