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彼が言っていたことは、全部当たっていた。ロッカーで一年生達が楽しそうに話しているのを見て、本当はもっと混ざりたいなと感じている時は少なくないのである。
でも、その話題に入っていく勇気がない。
みんなが楽しそうであればあるほど、空気を壊してしまったら申し訳ないと思ってしまう。特に自分が次期キャプテンを任命されていることは既に知らされている話だ。操自身の実力など大したこともないというのに、だいぶ一年生達からは萎縮されている印象は受けているのである。
親しき仲にも礼儀は必要だし、それが部活の先輩と後輩ならある程度仕方のないところもあるのだろうが。正直こんな信頼のない状況で、三年生が引退した後やっていけるのかという不安はあったのである。
ただでさえ、自分は英知のように――魔法使いのようにフィールドを操ることなど出来ないというのに。
「……俺、そんなに真面目そうに見えます?」
尋ねた言葉の返事は、予想外のところから返ってきた。パフェにかじりついていた亮馬である。
「見えます見えます。それが悪いことだとは思いませんけど、なんかフィールドの外でも真面目すぎて時々辛そうだとは思ってました!」
こういう時、天真爛漫でものをはっきり言っても憎まれない質というのはお得である。同時に、この場にいた後輩が彼で良かったかもしれないと思った。響也ならきっと、こうはいかなかったことだろう。
「折原先輩がサッカー大好きなのは知ってますよ。だってこんなに頑張ってるんですもん。だけど、だったらもうちょっと楽しそうにサッカーしてもいいのになーっていつも思ってました。なんていうか折原先輩、響也と似てるところあるし」
「俺、あいつほど生真面目じゃないつもりなんだけどな」
「って、多分向こうも思ってますよ?……なんていうか、一生懸命が行きすぎて、時々空回ってる……うーんそれもちょっと違うかな、みんなとズレてるわけではないし。でも、なんか、好きなのに楽しくないってのは苦しいんじゃないかなって」
なお、恐ろしいことに亮馬のパフェは既に三分の一程度の高さまで減っていた。あのソフトクリームとアイス、フルーツの巨塔は一体どこに消えたというのだろうか。
「一生懸命やることと、楽しくサッカーやることって矛盾しないと思うんだけどなぁ。キャプテンやること、にしたってそう。先輩達が折原先輩を次期キャプテンにって思った最大の理由は、折原先輩が一番サッカーが好きだったから!だって俺は思ってるし納得してるんですけどねぇ」
「風見……」
ある意味、それは的を射ているのかもしれない。目を丸くする操に、そうそう、と笑いかけてくる英知。
「次期キャプテンとしての在り方ってやつに悩みすぎてるようだが、間違えるなよ。俺や先代キャプテンみたいになろうとしなくていい。むしろ同じモンになんかなれるわけないんだ、誰だってそうだ。お前にはお前の強みがある、それを生かして、全力で楽しめばいいんだよ。“サッカー”も“キャプテン”もな」
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