20人が本棚に入れています
本棚に追加
<第三話・賽は投げられた>
パフェは非常に美味しかった。何故だか先輩二人は青ざめて自分の方を見ていたが。
――そんなに食べたかったなら一言言えばいいのにー。俺だって高いもの頼んじゃったのは申し訳ないと思わないでもないしさー、欲しいっていえば全然先輩達にもあげたのになー。
亮馬は本人達が聞いたら“違う、そうじゃない”と即座にツッコミを入れたであろうことを考えつつ(勿論そんなこと知るよしもないわけだが)、てくてくと自分の家に続く道いていた。
カフェは星ヶ丘駅前に位置していた。駅を通り過ぎ、西へ西へと歩いて住宅街を抜けていくと河川敷に到達する。その川沿いに、亮馬の住むマンションは立っているのだ。同じ一年生のレギュラーであり大のサッカー好き、意気投合したストライカーの響也のことは、何度も自宅に招いたことがある。大抵サッカーの話をするか、ゲームをやって盛り上がって終わるばかりであったが。個人的には、彼のことは一番の親友だと思っているし、これからもサッカー部を一緒に盛り上げていきたいと心から考える間柄だった。
だからこそ。今日はその響也のことで、キャプテンと次期キャプテンにどうしても相談したいことがあったのだが。操の方も、キャプテンとしてのあり方に非常に悩んでいるようだったし――結局、自分の方の悩みを言い出すことは叶わなかったのである。
ただでさえ疲れている様子である彼に、これ以上負担をかけるのは忍びなかったというのもあるのだが。
――はあ。結局パフェ奢ってもらっただけで終わっちゃった。悪いことしたな……相談したいことがあるっていうのは本当だったのに。
そう、わかっている。このままにしておいていいはずがないということは。
正直亮馬の方が“当事者”であったなら、ここまで悩むことはなかっただろう。自慢ではないが、自分のメンタルは硬いし、ちょっとやちょっとの人の評価や待遇では折れないという自負がある。しかし、響也は違うのだ。彼は高い実力や才能を持つゆえに、そして何事にも真剣に考え込みすぎるがゆえに、抱えなくてもいい悩みを抱えて落ち込んでしまうところがあるのである。
それは彼が、目つきが悪くてクールに見える外見、一歩間違えれば不良じみて見える顔立ちとは裏腹に実際はとても繊細で優しい心を持ち合わせているからでもあるだろう。
例えばそう、自分に喧嘩をふっかけてきたヤンキーがいるとして。殴ってブチのめせば切り抜けられる場面であったとしても、彼はその場で拳を握って耐えてしまうタイプなのである。何故なら、拳を振りかざすことで誰かに迷惑がかかることを真っ先に考えてしまうから。
きっと、亮馬に対しては破格の待遇をしてくれているのだろう。彼の悩みを、多分自分だけが知っている。というか、あまりにも様子がおかしいのでしつこく聞き出してやっと教えて貰った、というのが正しいのだが。
最初のコメントを投稿しよう!