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「村田さん良い質問です。みんなも聞いてね。小学校六年間で楽しかったことや、大人になってなりたい仕事や夢を書いてね」
ひなこ先生が那美過小と言わなかったのは、小学生で、他校から転校してきた生徒がいるからでしょう。先生としての配慮です。
五年生やまして、六年生で那美過小に転校してきた子で、先生の言葉をそのまま受け取り、数か月や二年以下の楽しかったことしか、書かない子がいるからでしょう。
「先生、題名は卒業文集で良いんですか?」
また、村田さんが質問しています。
「一行目に卒業文集と書いてください」
村田さんがどんなに質問しても、先生の話を、聞き逃している子もいます。一行目から本文を書いて、書き直せなくなり、枠の外側に題名や、自分のクラス名や、氏名を書く子もいるのです。
僕はシャーペンを手にして、原稿用紙を見ました。文房具メーカーの四百字詰め原稿用紙を、コピーしたような、紙質が、ざらざらしていました。しかし、小学校オリジナルの原稿用紙です。
まず、一行目に“卒業文集”と書きます。二行目に自分の学年とクラスを、三行目に氏名を書きます。
これで三行埋まりました。読みやすさのためと理由付けをして、一行空けてから、本文を書きます。これで四行埋まりました。
教室内が、静かになりました。
ペキ!
筆圧が強い誰かが、シャーペンの芯を折る音は、慣れっこです。僕に近寄る先生の気配を感じます。
僕の背後に座っている子に用があるみたいです。恐らく、本文が書けていない子か、名前を書き忘れたのでしょう。
「うーん、楽しかったこと、何かな?」
肩越しにひなこ先生を見れば、両手を膝に当て、膝を曲げながら、腰を落してます。先生が座っている子供と、目の高さを合わせるためです。
五年生の担任だった、たつろう先生は背が高く、両膝を床につけていました。
ジャージのズボンは、いつも、膝から下が、埃まみれになっていました。掃除の時間に教室のほうきがけを、サボる子もいるからです。
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