ホットドックコーナー2

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ホットドックコーナー2

三年前にさかのぼる。 通学路の途中に小さなホットドック屋がある。 メニューはホットドックとコークだけ。 バンズにウインナーとマスタードを挟んでケチャップをかけるだけであっけないほどシンプル。 でもすごく旨い。 その秘密をマスターはぜったい教えてくれない。 店の女の子にそっと聞いてみた。 「ふふ、それはマスタードに秘密があるのよ」。 確かに市販のマスタードにはない味だ。 どこが違うか分からない、まっいいか。 僕ら3人は毎日のように学校帰りにこの店に寄って、たわいのない事をだべった。 マスターは陽気だし店の女の子もいけてる。 少しすれた感じがいい。 アメリカのちょと不良の女の子みたいだ。 ファンキーなTシャツに店のロゴが入ったエプロン。 店の名前は「パームツリー」。 かなりベタだ。 ひねりがない。 「オーナーの趣味なの、彼、単純だから」と店の女の子。 ああ名前はレイちゃん。 店の内装はまるでカルフォルニア。 ホットドックならNYだろうけどそんな事はおかまいなし。 ある日仲間の健二がレイちゃんにアプローチしたがった。 相談に乗る僕たち。 「おい、健二、行けるよ、行け、行け」と無責任にはやしたてる。 人の恋路をちゃかすのは楽しいものだ。 単純な彼はその気になり、告った。 そしてイタメシ屋に誘った。 驚いた事に彼女は、「うんいいよ」と言うではないか。 あわてる健二。 必死で服を揃え、店を予約して、彼女をエスコートする。 楽しいひととき。 彼は次のデートに誘った。 「あーおいしかった、ありがと、でもごめんね、私彼氏いるの」 えっ、 そんな。 「何で来たの」毛rは口をぱくぱくさせながら問う。 だってこの店来たかったんだもん。 あっけらかんと答える。 ある意味彼女らしい。 悪気はないのだ。 そして、健二のとても淡い恋は終わった。 最初は笑ってやっていたが、何だかかわいそうになってきた。 「海でも行こうか」。 柄にもない事を僕は彼に言う。 失恋したらまず海だ。 男二人で行く海はとてもむなしい。 そのうち夕日になって、なおさらみじめになる。 「女なんて他にも一杯いるさ」 説得力のない言葉で彼をなぐさめる。 そんな日々を過ごしているうちに進学・就職の選択に迫られる時が来た。 人生はじめての大きな分岐点。 この決断が人生を大きく変える。 僕たちは「パームツリ―」の音楽で育った。 店にはマスターのギブソンが置いてある。 彼は古いアメリカの音楽が大好き。 「イーグルス」の「ホテルカルフォルニア」、リンダロンシュタットの「デスペラード」 ビリージョエルの「ストレンジャー」…。 渋い。 いつも僕たちには、良きアメリカの音楽とホットドックがとなりにあった。 僕らは「マスタード」というバンドを作っていた。 僕はギターとボーカル。 健二はベース。 理子はキーボードとサックス。 理子がサックスを吹くのは理由がある。 彼女の父親は有名なサックスプレイヤーだ。 理子は軽音楽部部でサックスを吹いていた。 でも素行が悪くてクビ。 そして僕らとつるんでここにいる。e599bed7-8642-4196-b712-9fee4cf3c231
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