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1955年 ミュンヘン
五年間は長いようであっという間だ。秋の訪れを感じるその日、ユリウスは出所日を迎えた。
刑務所での生活は規則正しく、完全に管理された日々はナポラで軍隊式の生活を経験したユリウスには快適なほどだった。おかげで自分の犯したことと比べれば与えられる罰は軽すぎるのではないかとときどき罪悪感にとらわれた。
どこかで裁判のことを聞きつけたのか父親から何度か手紙が来たが、後ろめたさからユリウスは一通も開封することすらできなかった。空襲の激しかったハンブルクで父が戦争を生き延びたことは嬉しかったが、自分が親衛隊員として多くの人たちの死に関与したことを思えば、父の生存に喜ぶことすら罪であるように思えた。
一度、ナポラで同室だったラルフが面会に来た。卒業までナポラにいた彼は卒業後に西部戦線に参加したが幸い五体満足で終戦を迎えた。その後は故郷のフランクフルトで大学を卒業して、今は一般企業に勤務しているのだという。
かつて意気揚々と「戦場で功績をあげて党で出世するんだ」と話していた少年の面影はもうどこにもない。大人になったといえば聞こえがいいが、ラルフの中では何かが完全に枯れ果ててしまった、そんな風にも見えた。
「ユリウス、まさかおまえが戦犯だなんてな」
「それに見合ったことをやったんだ。五年だって軽すぎるくらいだ」
ユリウスの答えにため息をつき、ラルフは「まあ生き残っただけでも運が良い。俺たちは二分の一だからな」とつぶやいた。
二分の一、というのは四人部屋のうち生き残ったのが半分という意味だ。卒業を待たずに戦場に行くことを選んだカスパーは東部戦線でソ連軍の捕虜になり、戦後シベリアに送られてそこで死んだ。同性愛疑惑で退学処分になったマテーウスは、終戦直前のベルリンで激しい空襲のなか行方不明になったきりなのだという。
「まさか、あんなに誇らしかったナポラ出身であることをひた隠しに生きる日がくるとは、想像もしなかったよ」
厳しい中でも和気藹々と過ごした少年時代を思い出してか少しだけ懐かしそうにつぶやいたラルフは、しかし思いを振り切るように首を振った。
「でも戦争はもうまっぴらだ。あの頃は俺たち皆ガキだったよ。まあ、子どもの過ちの代償は俺たちの場合ちょっと重すぎた気もするけどさ」
出所後何か困ったことがあればいつでもフランクフルトに来れば良いとラルフは連絡先を置いていった。しかしナポラ出身であることをひた隠しにしているラルフを戦犯である自分が訪れることなど想像もできない。ユリウスはすぐに連絡先を捨て去った。
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