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「ああ、執行されたんですね」
自分でも驚くほど感情の込もっていない声だった。口に出した後でクラウスが奇妙な表情をしたことに気づき内心後悔する。もう少しどうかした反応をすべきだったのではないか。何しろ、レオ自身も彼らの起こした戦争で被害を負った者の一人なのだから。
短くなったたばこから口を離し、クラウスは何度か大きな煙を吐き出した。レオはそれを自分に対する失望のため息ではないかと疑い、居心地の悪い気分になった。
「ああ、やっとだ。奴らのやったことに比べたらこの程度じゃあ全く釣り合わないが。山ほど殺されて、あんただって若いのにそんな体にされちまって」
クラウスは、まだ滑らかには動かないレオの左膝に目をやる。
当初は挨拶を交わすだけだったが日を重ねるうちに世間話をするようになった。ずいぶん後になってからクラウスは、当初レオが何者なのかを見定めかねていたのだと告白した。出自を探る最初の質問が「お前さん、国防軍かい? どこの戦線でやられてきたんだ」だったのも、レオの明るい鳶色の髪と緑の瞳からすれば無理もない。
収容所です——そう答えたときに目を丸くした彼の顔を今もはっきりと思い出すことができる。レオは、ナチスドイツの強制収容所が解放された際に、大怪我を負って意識を失っているところを米軍に救助された。
今でもこの国にはユダヤの血統に嫌悪感を抱く人が少なくないであろうことは承知している。しかしレオは自らの体に流れる血について、吹聴して回る必要もないものの、わざわざ隠すこともないと考えている。
相手が誰であろうと、聞かれれば特段の葛藤もなしに収容所解放者であることを明かそうとするレオに、神経質なニコはいつも「やめてよ」と不安そうに目を泳がせる。
兄さんはわかってないんだ、何も。そう言って小さな唇から吐き出されるため息を耳にするたびに、レオはもどかしさに苛立つ。何もわからないのは、何もわからなくなったのは、俺のせいじゃない。
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