あなたを愛してるから

1/3
前へ
/3ページ
次へ
愛するものを手放しなさい どこかで聞いた詩の一節が思い浮かぶ。もしかしたら詩じゃなかったかもしれない。その時は俺には絶対無理だろうと思ったし、そんな状況が訪れることもないと思っていたから深くは考えなかった。 好きで好きでたまらない彼女の体をぎゅっと抱きしめる、いつもなら背中にまわされる手が、今日はのびてこなかった。そのせいか背中が寒く感じる。橙色の光が山間にゆっくり沈んでいく。いつもなら綺麗と目を細めて笑うのに、俺と彼女のタイムリミットを知らせているようで憎らしかった。 「本当にごめんね。私…」 「うん」 胸が張り裂けそうに苦しいのは俺の方なのに、彼女の方が辛そうだった。謝る声はしめっていて、泣いているんじゃないかと思った。 「向こうでも元気で」 「わかってくれてありがとう」 「友達なら良いんだよな?」 「それは、まあ…」 3年付き合っていた俺たちは大学進学を機に別れることに決めた。なぜなら二人とも別の大学に進学し、俺は地元の大学に通うけど彼女は遠く離れた地方へと旅立ってしまうからだ。 彼女は寂しがり屋でそばにいないとダメになると言った。週末や休みの時はできるだけ会いに行く、チャットやスカイプもあるから大丈夫だと説き伏せようとしたけれど、離れていても互いの気持ちが同じままでいるのは信じられないと言って泣いた。納得がいかないながらも俺は彼女と恋人同士であることをやめ、友達としてつき合い続ける道を選んだ。 明日にも出発する彼女を呼び出してもう一度このままつき合えないかと聞いたけど、彼女の答えは変わらなかった。他に好きな人ができたか心が離れたのかとも思ったが、どうも違うようだった。 最後に抱きしめさせてほしいと頼んで、思い切り強く抱きしめた。俺のことを決して忘れないようにと願いを込めて。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加