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(六)
「座敷牢だ」
兄の言葉に状況が想像できてきた。
発情期の度に秀はここに閉じ込められてきたのだ。先の南京錠の鍵を持っているのは当然祖母だろう。
錠前の点検を怠った者はおそらく罰せられるに違いない。だが、僕には関係のないことだ。
「座敷牢の錠前はがっちりかかってる」
親切にも兄は教えてくれた。僕は手で格子の内寸を確かめる。
大人なら通れない。しかし子どもならぎりぎり通れるかもしれない。
僕は片腕を枠の中に通し、頭を突っ込んだ。
「りょ、良?」
うろたえた兄の言葉に反応があった。
「良様? な、なぜ、ここに?」
なぜ?
秀がここにいるからだ。
ここで沈丁花によく似たエロティックな香りで僕を引き寄せているからだ。
対角線で肩を通し、腕の力で腰まで中に入った。腰にひねりを加えながら、少しずつ格子を抜ける。
最後はどさりと腕と顔から落ちた。
血が滾っていた。
手探りで香りを放つものをもとめる。
いた!
目の前に秀が、オメガが倒れ伏している。
これを征服しなくてはならない。所有の印を刻みつけ、楔を打ち込まなければならない。
このオメガはぼくのものだ
僕は伏している秀の体を抱いた。
「お、おやめ、ください、どうか、良様」
秀の訴えを無視して耳朶にキスをする。秀の体がぶるっと震えた。
頭の中の冷静な部分が「第二次性徴期が来た」と告げた。そして、今夜、精通も起こりそうな予感がしている。
抱きすくめた体はひどく熱い。
うなじに歯を立てようとして革のベルトに妨げられた。そうだ、オメガはチョーカーをしているのだ。
「チョーカーを外せ、秀」
「良様、どうか、どうか、お許し、ください」
髪を掴んで秀を引き起こすと全身が震えていた。息が乱れ、酷く喘いでいる。
アルファの威圧を僕は無意識に放っていたようだ。
「外せっ」
語気を強めると、啜り泣きが聞こえてきた。小さな金属音がして、何かが地に落ちる音がした。手で触れたうなじは無防備になっていた。
嗜虐と支配欲と秀への思いが体の中に吹き荒れて、一切の迷いなく秀のうなじにきつく歯を立てた。
「ああああああっ」
秀が悲鳴を上げた。
「あ、ああ、あ、はあ……」
体の変化が始まってしまったのか、秀は甘く喘ぎだした。
やがて、秀の方からすがってきた。
「どうか、良様、良様で、わたくしを満たしてください」
熱に浮かされたように秀の手が僕のたけっている物にパジャマの上から触れた。
「どうか、これで、わたくしを……」
下着ごとパジャマのズボンを脱ぎ捨てた。それを待っていたのか、秀の手が昂りをつかんで扱き始めた。
ぬるぬるした物が丁寧に塗られ、秀自ら自分の後孔へ先端を当てた。
「どうか、完全に、わたくしを、良様のものに――」
秀の体は驚くほど柔らかく僕を飲み込んでいった。
発情期特有の現象であり妊娠しやすくする機能だと、調べた知識がよぎった。
(熱い、柔らかい)
「う、うわあああああっ」
兄の叫ぶ声と階段を駆け上る音がした。
ゆっくりしている暇はなくなった。
柔らかかったそこが、僕を締めつけ何かを搾り取ろうとするかのようにうごめく。
がつがつと中を抉ると「は、あぁん」と淫らに腰を振り、秀は啼いた。
その声が愛おしくてたまらなく官能を刺激し、くらくらしながら腰を打ちつけた。
祖母達が駆けつけてきたときには、もうすべてを済ませた後だった。
うなじの噛み痕と、秀の緩んだ蕾から溢れているであろう僕の精が、秀の番が決まってしまったことを見せつけているはずだ。
「なんてことをしたんだい、あんた達は」
祖母が声を震わせていた。普段の苛ついた調子とは異なり、何か怯えたような気配があった。
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