遠くへ行けない私

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 遠くへって我ながらいい加減な書き方をしたものだと思う。地理的に遠くに行くと海都は思うだろう。本当はそういう意味じゃない。私にとって遠くとは、海都から離れるということ。海都を過去にするということ。  私は始発電車で一度自分のアパートに帰って、必要最低限の荷物をボストンバッグに詰め込む。とりあえず、海都の手の届かないどこかへ一時避難しないと。車に乗り込んでエンジンをかけた。  エンジンをかけたはいいけれど、私はなかなかアクセルを踏む気になれなかった。海都から離れる。そう決めたのに、どこかで海都が来るのを期待しているのだ。未練たらたら。 「だめだめ。行こう」  私はアクセルを踏んで左折して駐車場を出た。    海都とはよくドライブをした。どこへと決まってない時もあった。ただ、車内で二人だけの空間を私は楽しんだ。たわいもない話、笑い、流れる曲。二人だからこそかけがえのない時間。海都もそうだったと思いたい。  ショッピングも映画もそれなりに満足な時間だったけれど、ドライブして行った山や海の方が私の心に残っている。  特に海都とはよく海に行った。  自然とその海へ向かっている自分がいた。  だめだ。海都から離れるつもりだったのに、私は海都を自分から探してる。
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