Shadow

6/7
前へ
/7ページ
次へ
「う……ん…」 目を覚ますと、白色に近い天井と蛍光灯が目に入る。そして、室内に流れるリラックス効果のあるという音楽で、自分のいる場所が保健室のベットの上だと気が付く。 駿が運んでくれたのかな。 そう思ったのと同時に、「目、覚めた?」と声が掛かる。 ベット際から覗き込んできたのは、やはり駿だった。 「階段から落ちて気を失ったから保健室に運んだんだ。大丈夫?」 「全然大丈夫。駿、ありがとう。 痛いとこももうないし、教室戻るよ」 駿から逃げ出したい気持ちもあって、口を囃し立てる。上半身を起こし、駿がいる反対側から下りようとすると左手首を掴まれる。 「何?」 振り返ることなく冷たい声で言い放つ。 「……涼ちゃん。王様ジャンケンしようか?」 「は?」 突然出された提案に訝しげに振り返る。 王様ジャンケンとは、ジャンケンに勝った方の言うことを何でもひとつ聞くというもの。昔よくやった二人の遊びだ。 私は駿に負けたことは一度もない。 「いくよ。 ジャンケン──」 「え、ちょ……!」 一番最初にグーを出すのが駿の癖。だから、パーを出せば100%勝てる。 「──ぽい!」 「………え?」 私はいつもの通りパーを出した。それに対して駿が出したのはグーではなく、チョキだった。 「僕の勝ち」 出したチョキをカニのように動かしてピースをする駿。 そこで初めて気が付く。癖になっていたのは自分の方で、彼はわざと負けてくれていたのだと。 「じゃあ、“言うこと”言ってもいい?」 避けている理由を聞かれるのだと身構える。好きだってバレたら、駿はきっと私を幼馴染としても見てくれなくなる。 嫌だ、嫌だ。 「涼ちゃん」 いつもより低く、少し掠れた駿の声。 すぅっと息を吸い込む音が聞こえる。言葉を発しようと口を開く。 私はギュッと目を瞑る。 「────好きだよ」 「………………え?」 言われた言葉がすぐに理解できなくて、目を開く。 駿はいつもと変わらず優しい表情(かお)で微笑んでいた。 「子供の頃からずっと、涼ちゃんのこと好きだよ」
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加