4人が本棚に入れています
本棚に追加
「う……ん…」
目を覚ますと、白色に近い天井と蛍光灯が目に入る。そして、室内に流れるリラックス効果のあるという音楽で、自分のいる場所が保健室のベットの上だと気が付く。
駿が運んでくれたのかな。
そう思ったのと同時に、「目、覚めた?」と声が掛かる。
ベット際から覗き込んできたのは、やはり駿だった。
「階段から落ちて気を失ったから保健室に運んだんだ。大丈夫?」
「全然大丈夫。駿、ありがとう。
痛いとこももうないし、教室戻るよ」
駿から逃げ出したい気持ちもあって、口を囃し立てる。上半身を起こし、駿がいる反対側から下りようとすると左手首を掴まれる。
「何?」
振り返ることなく冷たい声で言い放つ。
「……涼ちゃん。王様ジャンケンしようか?」
「は?」
突然出された提案に訝しげに振り返る。
王様ジャンケンとは、ジャンケンに勝った方の言うことを何でもひとつ聞くというもの。昔よくやった二人の遊びだ。
私は駿に負けたことは一度もない。
「いくよ。
ジャンケン──」
「え、ちょ……!」
一番最初にグーを出すのが駿の癖。だから、パーを出せば100%勝てる。
「──ぽい!」
「………え?」
私はいつもの通りパーを出した。それに対して駿が出したのはグーではなく、チョキだった。
「僕の勝ち」
出したチョキをカニのように動かしてピースをする駿。
そこで初めて気が付く。癖になっていたのは自分の方で、彼はわざと負けてくれていたのだと。
「じゃあ、“言うこと”言ってもいい?」
避けている理由を聞かれるのだと身構える。好きだってバレたら、駿はきっと私を幼馴染としても見てくれなくなる。
嫌だ、嫌だ。
「涼ちゃん」
いつもより低く、少し掠れた駿の声。
すぅっと息を吸い込む音が聞こえる。言葉を発しようと口を開く。
私はギュッと目を瞑る。
「────好きだよ」
「………………え?」
言われた言葉がすぐに理解できなくて、目を開く。
駿はいつもと変わらず優しい表情で微笑んでいた。
「子供の頃からずっと、涼ちゃんのこと好きだよ」
最初のコメントを投稿しよう!