歪む笑み

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自分の出番が終わり、その後をぼんやりと過ごしていた。 ──他の人の声を聴くこともなく。 少しウトウトし始めた時。 『続きまして。高音の部に移ります。まず最初に歌うのは………真白凛花さん!』 司会者の声と、周りの割れんばかりの拍手に一気に眠気が醒めた。 最初にしたのは、息を吸う音。 一瞬だけ(まぶた)を閉じると、胸に手を当てて歌い出した。 その途端に、周りの小さな囁きは止んで、代わりに感嘆の吐息が聞こえてきた。 澄んだ綺麗な高い声。 潤んだ瞳。 微笑みを浮かべながら歌う彼女はまさに歌姫だ。 何処までも伸びてゆく高音は、途切れることを知らないようだった。 「凄いわ……」 自分以外の歌声は認めることの無い夜子が思ってしまうくらいに。 「っ…………」 この感覚はなんだろう。 首筋から腕にかけてのゾワッとした感じは。 ──それは、鳥肌だった。 澄んだ透明な歌声に感動したからではない何か。 それが分かるのは遅くなかった。 「えっ………」 凛花を見つめる瞳が大きく開かれる。 「嘘っ……」 変化の前触れのような鳥肌は、収まるどころか増えていく。 ──凛花の持つ楽譜から光が溢れているのだ。 彼女の心を表しているかのような光。 それは、白くて黄色のような、銀色にも見える不思議な色だった。 ──(まばゆ)い光。 「綺麗ね…」 (きっと、あの子は心が綺麗なんだ…。だから、あんなに暖かい綺麗な色の光が出るのね) いつしか、凛花の出す光は、会場全体を包み込んでいた。 その光景を、息をする事も忘れて夜子は眺めた。 ずっと見ていたくなるような感覚に襲われる。 ──欲しい。 あの光が。 彼女が。 あの色が。 「羨ましい……」 妬ましさの混じった呟きは、誰にも聞こえることはない。 力強さが増し、柔らかな歌声はさらに高く舞い上がる。 凛花の周りをふんわりとした風が包んでいるように感じたとき。 ──次の変化が訪れた。 彼女の楽譜から出る光が違う色に変化したかと思えば、今度は金色に光り輝く音符が飛び出した。 眩しい。 ──それでも閉じること無く見ていたい。 夜子は、手に汗を握り見つめる。
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