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歪む笑み
「宵闇先輩、御機嫌よう」
「御機嫌よう、皆さん」
「昨日の大会、観にいきました! 本当に素晴らしかったです!!」
「あ、私も! とてもレベルの高い技術力と、それによって構築された世界には、胸が震えました!」
「やっぱり宵闇様が一番です!」
「……ありがとう、皆さん」
彼女たちの興奮した賞賛の声に、落ち着いた微笑みで頷く。
宵闇夜子は、心の中で心の中でほくそ笑んでいた。
──当たり前でしょう。
(この宵闇夜子様よ? 一番なのは当然よ。そうではなくって?)
表面上は穏やかに頷きながら、心は傲慢な言葉で溢れていた。
「それじゃあ、皆さん。私、先生に呼ばれているので、これで失礼するわね」
「はい、お話してくださってありがとうございます」
人当たりの良い笑みを浮かべたまま、彼女たちの前から去っていく。
「でもさー、宵闇先輩も低音部では一番だけど、やっぱり高音部の一番っていえば『光の歌姫』よね〜」
「分かるわ、私もそう思う。昨日の大会でも真白先輩は輝いていたわよね! 高音部の一番は真白様よ!」
そう言って笑い合う後輩たちの声が角へ曲がった夜子のもとへ届いた瞬間。
──今まで穏やかだった笑顔は消え去った。
代わりに浮かんだ表情は、無だった。
その後で、恐ろしいまでの完璧なにっこりとした笑顔を作る。
「ふふっ、目障りな声が聞こえるわ。ああ、鬱陶しい」
そう呟いて、ゆっくりと階段に足をかける。
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