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09
その声が先輩によく似ていたからか、思わずドキッとしてしまった。生徒会室は寮の各部屋と同じオートロック式のドアになっていて、鍵を開けられるのは生徒の中では生徒会と風紀の役員だけだ。
「なんだ。橘か」
ドアを開けて入って来たのは風紀委員長の橘で、残念と言えば残念だけど少しホッとした俺は再び仕事に向かった。
「なんだって。それだけかよ」
先輩に声が似てて当たり前だ。因みに橘は声だけじゃなくて、顔も先輩によく似ている。実は橘は肇先輩の弟で、性格や風貌以外はとても似ていたりする。
殆ど手を加えていない髪色の肇先輩に比べて、橘は風紀委員らしからぬ見た目をしている。その髪の色は限りなく金髪に近い茶髪で、金髪というよりはオレンジ色に近い。
その風貌には付きもののシルバーのピアスも装着済みで、橘が顔を動かすたびにチャラチャラ音がしてそうだ。
背格好は肇先輩と同じくらいで細マッチョの長身。橘は成績もトップクラスで、生徒会役員になってもおかしくない奴だ。
それが何故役員入りしなかったのかと言うと、去年、肇先輩は俺に補佐役を打診する前に鷹司の次に橘に打診していた。橘は兄からの生徒会補佐への打診を蹴って、一年生にして風紀副委員長に就任したいきさつがある。
「他のメンバーはどうした?」
「あー……、昼飯食いに行った」
「……そうか」
聞かれたことに適当に答えたけど、案の定納得がいってないような生返事だ。おそらく橘は先輩から内情を聞いて、様子を見に来てくれたんだと思う。肇先輩が気付いてないなんて有り得ないことだから。
だけどしょうがないじゃん。なんとかしようとは思ってるけど。
取り敢えずは今日中に提出しないといけない書類を纏めて、新歓イベントの企画案もいくつか考えておかなきゃいけない。
「んー……、あのな。俺が口出しすることじゃねえかも知んねえけどさ」
言いにくそうに口ごもる橘に、
「お前さ。このままでいいと思ってんの?」
痛いところをつかれてしまった。
「生徒会の仕事ってさ。まあ風紀もそうだけど、会長一人でするもんじゃねえだろ」
思わず手が止まった俺に気付いているのかいないのか、
「お前はちったあ甘えることを覚えろ。頼れるやつには頼ればいいんだよ」
とにかくそう言うと、橘は部屋を出て行った。
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