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 鷹司が出て行ったドアを見つめたまま、俺はしばらく動けずにいた。釈明会見をするはずだった鷹司がスクープを肯定した。その意図を聞き出そうとしたが、鷹司は結局、それを(けむ)にまいたのだ。 『……いやか?』  その顔があまりにも真剣だったからか、心が乱れる。鷹司は鷹司なりの考えがあるんだろうが、せめてその考えを俺にも聞かせて欲しかった。 「だって、あれじゃまるで……」  結局、鷹司は問題発言について言及することはなく、ただ俺に嫌だったかと聞いただけだった。鷹司のことだから何らかの策があるんだろうが、ちゃんと言ってくれないと訳が分からない。  あのスクープは鷹司一人の問題じゃなく、俺にも関わって来るものだ。それだけにきちんと説明して欲しいんだけど、鷹司はうやむやにしたまま生徒会室を出て行ってしまった。  事のあらましを整理すると、釈明会見で鷹司はスクープ写真について釈明することなく自分から俺に一方的にキスをしたと宣言した。その上、まだ付き合ってはいないもののお互いに心を許しあった仲だと曖昧な表現で熱愛スクープを肯定したのだ。  いや、あの内容だと鷹司が一方的に俺に惚れているとも取れないでもないが、心を許しあったの(くだり)は両思いだと取られなくもない。確かに前よりは心を許しているかも知れないが、だからと言ってあのスクープをそのままにしておいていいはずがない。 「あー、くそっ」  せめてこれからどうすればいいか、その指針についての説明が欲しかった。鷹司はこれからどうして行くのか、そして俺はどうすればいいのかの。  鷹司は忘れているかも知れないが俺も当事者だ。事の終息を待つにしても、きちんと説明してくれないと対処のしようがない。ただ、 『おめでとうございます!』  そう言って来たのは俺と交流のない生徒ばかりで、生徒会や風紀の役員、肇先輩、槙村や大塚も事の真相を知っている。だとしたら、このまやあやふやにしておいた方が俺にとっても都合がいいのかも知れない。  そもそも鷹司と付き合ってると誤解されたとしても、今の俺にはなんの支障もない。恋人がいるわけでもないし、好きな人もいないしで。 「恋人、か」  これから誰かを好きになって恋人が出来たとしても、鷹司とは実のところ恋人宣言はしていない。だから俺のことを一方的に好いているように見せ掛けている鷹司には悪いけど、改めて好きになった人と恋人宣言をすればいい。 「まあ、いいか」  誤ったスクープが出たとは言え、このままでも支障はないとの結論に至ったことで俺は気楽に構えることにした。今のところは俺の親衛隊からも鷹司の親衛隊からも歓迎ムードだし、曖昧な関係に見せ掛けることはかえって都合がいいかも知れない。  人の噂も75日と言うし、だとしたら今回の騒動も夏休みの間に終わっているだろう。そんなことを呑気にも考えていた俺は、鷹司が考えを変えた真意を知るよしもなかった。
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