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10 庵side (風紀)
「……うーん。結構やばい状態かもなあ」
兄貴の話を聞いてある程度の内情は把握していたつもりだが、思っていた以上に危うい状態にあることが分かった。つか、羽柴が全く動じないのだ。内心ではいろいろと試行錯誤してるだろうに、そんなそぶりをおくびにも出さない。
飄々と仕事を熟しているが、その顔色が尋常じゃなくやばい。本人も周りもきっと気付いてないんだろうが、青白いを越えて土気色をしている。
週末が締め切りの書類の数々もぎりぎりだったけど、羽柴はきっちり期間内に提出していた。その書類やデータ処理も完璧に仕上がっていて、とてもじゃないが一人でやったとは思えなかった。
「羽柴のやつ、目の下におっきいくまさん飼ってたな……」
きっと何日もろくに寝てないんだろう。まあ、あの量の仕事を一人で熟しているのだからそれは容易に想像出来る。
「何やってんだ、バカ司のやつ……」
元次期会長候補が聞いて呆れる。入学早々に次期会長と噂されていた鷹司は会長だったうちの兄貴からの補佐役への要請を蹴り、自由に遊ぶことを選んだのだった。
補佐役を辞退した鷹司の思いもわからないでもない。鷹司が高等部で羽を伸ばせるのは一年生のうちだけで、おそらく予想では二年生になったら会長になり、三年生には東大受験が控えてるんだから。
東大生になったらなったで勉強に追われ、卒業したら直ぐにでも家業である鷹司グループを継ぐ運命だ。
背負うものがあまりにも大きすぎて、去年の鷹司には荷が重すぎて現実から目を逸らしたかったんだろう。だからか、去年は少々羽目を外しすぎた。
どうやら代々、補佐役が会長を引き継ぐ慣わしがあることを知らなかったとは言え、鷹司は次期会長の座より束の間の自由を選んでしまった。
だからと言って真面目に補佐役を勤めた羽柴を怨むのはお門違いで、自業自得だと自覚はしているんだと思う。だけど元来意地っ張りで俺様な鷹司は、売り言葉に買い言葉で引くに引けなくなってしまったんだろう。
「……っとに、バカなやつ」
だが、それはそれ、これはこれだ。羽柴が会長で、鷹司が書記に決まったのは紛れも無い現実なんだからきちんと責務を果たして貰わないと困る。
今日、何回目かの溜息をつきつつ俺はある場所へと足を運んだ。
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