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11 要side (書記)
どうしてこんなにも苛々するんだろう。ほっとけばいいのに、気付けば生徒会室を覗いている。学食で昼食をとった後、俺達はいつもの校舎の屋上にやって来た。
ここは一般生徒は立入禁止になっている場所で、本来なら俺らも立ち入ってはいけない場所だ。だがしかし、いつの間にか俺らの溜まり場のような場所になっていた。
なんとなく足を踏み入れたこの屋上から生徒会室が見えることに気付いた日から、少なくとも俺は足しげく通っている。
「気になる?」
「……別に」
「ふっ、ほーんと素直じゃないんだから」
「ほっとけ」
椿野とそんないつものやり取りをしていると、
「やっぱここにいたか」
校舎の踊り場に続くドアが開いて、いけ好かないやつがこちらに向かって来た。
無駄に背が高いこの男は、不良でチャラ男の見た目のくせに風紀委員長なんてものをやっている。まあ、うちは服装や見た目に関しては校則らしい校則もなく、周りに迷惑や不快感を与えなければどんなファッションをしてもいいんだけどな。
風紀といっても制服の乱れや見た目が不良の生徒を取り締まるのではなく、うちの風紀は文字通り学校及び寮生活全般の風紀の乱れのみを取り締まっている。言ってみれば私立警察、はたまた保安官とでもいうべきか、そんなスタンスにいるのがうちの風紀委員だ。
うちはセレブ御用達の私立校で、様々な部類の人間が集まっている。不良と呼ばれる一部の生徒や親衛隊員が暴走することもあり、橘はそいつらを威嚇する意味合いも込めて少々尖った見た目をしている。
まあ、半分は自分の趣味だろうが。
「……なんの用だよ」
そんなの聞かずともわかるけど、取り敢えずそう聞いてみる。
「別に」
橘は事もなげにそう言うと、さっきまで俺がよっ掛かっていたフェンス間近に寄った。まだ昼休みはもう少しあるし、橘が言いたいこともよくわかる。
「羽柴さ。すんごい顔色してるの知ってるか?」
声色を変えずに飄々と言ってのけると、
「……あれ?」
不意に様子が変わった。
橘は俺に似すぎているからか、顔を合わせるとついついいがみ合ってしまう。橘はきっと俺の気持ちもわかるはずで、そう思うと悔しくて仕方がない。
「羽柴寝てる……? つか、あれ!」
「え、会長どったの?」
橘の声に羽柴以外の生徒会役員全員で生徒会室を覗いたら、どうやら羽柴はキーボードに突っ伏しているようだった。
「はっ、居眠りかよ。のんきなやつ」
思わず言ってしまったが、俺だって羽柴が連日寝る間も惜しんで責務に追われていることを知っている。
「……マグカップが!」
そう言い捨てると、橘はドアを蹴破るように階段を駆け降りて行った。
(――え?)
よく見ると俯せた羽柴の手元でマグカップが倒れ、恐らくは大量の珈琲であろう液体が机を汚していた。
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