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[第2章]弱音を吐くひと
久しぶりに夢を見た。大好きなテディベアたちに埋もれる夢。去年は一週間に一体は作っていたテディベアのぬいぐるみは、今では大小合わせて50体近くになった。
布地はサイズが合わなくなった衣類や手芸店の店先で安売りしていた端切れを使い、クローゼットの中は勿論、お気に入りの十数体は枕元に並べている。
ここのところゆっくり眠れなかったせいか、夢を見る暇もなかった。料理も出来なくて食事も出来合いやお惣菜ばかりだし、好きなことを思い切り出来ていない。
実は料理や裁縫が趣味だったりする俺は、本気で男子校であるうちでも手芸部に入るつもりでいた。当然、料理や手芸に関する部活なんてなかったんだが。
「……ん」
ゆっくりと解けていく視界の中に見えたものは、真っ白な世界。白い天井に俺の周りを囲む白いカーテン。どうやら保健室か病室のベッドで寝ているようだった。
「おお、気がついたか」
「……あれ、橘?」
徐々に霧が晴れていく頭の中で、生徒会の仕事の途中だったことを思い出す。
「いま……、何時だ?」
「もう放課後だよ。5時ぐらいかな」
「えっ!」
「羽柴、生徒会室で倒れてたんだぞ。いや、実際に倒れてたのはマグカップだけど」
倒れる前の最後の記憶は、何故か霞んでいくパソコン画面。その時の俺はパソコンの前に座ってたんだけど、突然酷い目眩がした。きっと立っていたなら、立ちくらみがして倒れていたはずだ。
「寝不足と軽い過労だってさ。ゆっくり寝たら取り敢えずは大丈夫だろうって」
「……そっか」
寝てる暇なんかないんだけどな。
「向かいの校舎の屋上からなんとなく生徒会室を覗いたら、お前はキーボードに突っ伏してるし、珈琲が零れてるし」
屋上は立入禁止になっているはずだけど、他のメンバーと一緒だったんだろうか。
「もしかして橘がここまで運んでくれたのか?」
「そ」
「その……、悪い。ありがとう」
「ははっ、どう致しまして。大事にならなくてよかったよ」
本当は他のメンバーがこのことを知っているのかどうか聞きたかったけど、俺は笑ってごまかした。この場に一人もいないことが、その答えなんだろう。
結局、その後は生徒会室で仕事をしたかったが、橘に止められた俺は大人しく寮の部屋へと帰ったのだった。
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