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「ふあっ……ねむ」  結果。昨夜はいつものように夜更かしをしてしまい、しかもいつものように定時に目が覚めた。ただ、夜更かしには違いないが、職務に追われているいつもとは心の持ちようが違う。  心に余裕があるからか、眠気はいつもと変わらないのに頭はとてもすっきりしていた。恐らくは久しぶりに好きなことをして、心が充実したからなんだろう。 「んーっ、がんばんなきゃ」  軽く伸び上がって気合いを入れた。昨日の分も取り戻すため、気張って仕事に取り組まないと。  いつもより少しだけ豪華な……と言っても昨日の残り物だけど……朝食を終えると、いつものように朝一番に身支度を整えて寮を出た。 「……ふふっ」  鞄の中に昨日作ったテディベアを入れて来た。夜更かししただけに、サイズこそ小ぶりだがなかなかの出来だ。生地は去年、外出する際の勝負服として買った少し派手めな柄シャツを使い、そのシャツのボタンを目に使った。  まだ新品同様だが、今年は着る機会が取れそうにないからしょうがない。箪笥の肥やしになるよりは……なんて、どうでもいいことを考えて。  寮を出て、学校へ向かう道もいつもと違ってどこか浮足立っていた。この分だと仕事もはかどりそうだ。 「……よしっ」  いつものように教職員と風紀委員と生徒会の役員だけに渡されたカードキーで、生徒会室に入った。背後で鍵がかかる音を聞きながら、自分のデスクに向かう。  疲れは全く残っていないみたいだ。久しぶりにブラック珈琲に頼らずに、パソコンや山積みされた書類に向かった。少しずつ、確実に仕事を熟しながら視線は窓の外。 「……いい天気だなあ」  久しぶりに街に買い出しにでも行きたいなあ。そう言えば、食材の調達はどうしよう。余裕があるなら自炊したいけど、恐らくはいつもの日常、生徒会室詰めの毎日に戻るだろう。  その証拠に、昨日の今日なのに今日も誰も来ないばかりか連絡も寄越さない。  橘からは朝一番に安否を尋ねるメールが来た。鷹司たちは……そういや、アドレスも交換してないか。その事実に自嘲しながら、今日も一人で大量の仕事を熟していく。  向かいの校舎の屋上からそんな俺の姿を見詰める人影があったことを、この時の俺は知るよしもなかった。
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