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一応は資料を受け取って貰えたことにホッとして、
「よしっ」
気合いも新たに生徒会室へと向かう。両手に抱えた書類の山やノートパソコンはまるで漫画のワンシーンのようで、そう思い、まだ笑っていられる自分にも思わずホッとした。
少し、ほんの少しだけど状況が改善されたような気がする。実は、心の底では弱音を吐いていた自分のことも笑い飛ばしたい気分だ。
他にも変わったことと言えば今日からセキュリティが強化され、一部のカードキーが廃止された。その代わりに生徒全員に支給されたのが腕時計タイプの端末で、この時計タイプのものが今までのカードキーの役割を担ってくれるらしい。
因みに廃止されなかったのは全校生徒が利用する特別教室や倉庫、資料室なんかで、これらは今まで通り担当教師が保管しているカードを貰って解錠することになっている。
今まではカードをわざわざ取り出して会計したり鍵を開けていたが、今日から腕時計をかざすだけで全てが出来るようになった。腕時計に代わったのは、カードを忘れて出掛けた時にオートロックがかかって部屋に入れない失敗が後を絶たなかったことらしく、腕時計なら睡眠や風呂の時間以外ずっとつけていられるし、確かに忘れて慌てることはないだろう。
おまけにずっと身につけているものだから、盗難に遭う心配も殆んどないようだった。過去には、生徒会室のカードキーや一般生徒のカードが盗まれる事件もあり、その度に大きな問題になっていたのだ。
「おー」
これって、思ったよりも便利かも。腕時計をかざすだけで鍵が開けられるって。いつもならわざわざ荷物を足元に置き、ポケットからカードを出して開けてたんだけど。
荷物をなんとか片手で持ち、腕時計をつけてる側の手で支えながら簡単に鍵が開けられた。しかも鍵が開いたと同時にドアも開き、その僅かな隙間から生徒会室に入ることが出来て。
「すごい。一瞬じゃん」
当然だけどこれは他のメンバーも全員持っていて、全員が生徒会室の鍵を開けられるはずだ。それだけにこの間のようなことがあっても大丈夫だと高をくくっていた俺は、この後、そんな当然のことに打ちのめされることになる。
その日の放課後。改めて生徒会室を訪れた俺は、いつものようにパソコンに向かった。
「えーと、新歓の企画は取り敢えず日向達からの意見待ちで、進行スケジュールは……」
ここ最近の仕事は、いよいよ月末に迫った新入生歓迎会の企画書作成と計画が中心で、以前に輪をかけた忙しさだ。
思えば俺が会長に就任してかなりの日数が経ったような気がしてたけど、実際には一ヶ月も経ってないってどういうことよ。それだけ忙しい毎日を送っていることに自嘲しながら、黙々と仕事を進めて行く。
やるべきことは山ほどあって、それは今ここにいない皆のスピーチ原稿にまで及んでいた。それはそれぞれに自己紹介しながら挨拶をするスピーチの原稿で、当然、各々が自分で書くべきものなんだけど。
鷹司や椿野はともかく、日向には原稿を書くのは難しい気がした。多分、なんだけど日向は生徒会の仕事がどんなものかよく分かってなくて、仕事を教えた時も、なんとか分かるように説明したつもりなんだけど。
今、思い返すと、難しい言葉を使いすぎたような気がして反省している。そもそも日向は勉強があまり得意じゃないみたいで、家柄の良さからぎりぎりA組なのにも関わらず、去年は全教科赤点だったらしく。
「日向らしいスピーチかあ……」
まずは自分で書けそうな鷹司や椿野は置いといて、日向の原稿に取り掛かる。
「……あ、れ?」
その時、またあの時と同じ強い目眩がした。
しまった。今日も手元にマグカップが……、そう思った俺が最後に見たのは、零れた珈琲で汚れた机の上のお気に入りのテディベア。
倒れたどさくさに紛れリコールされてしまったことを俺が知ったのは、その日の翌日。学校近くの病院で目覚めた夜のことだった。
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