08

1/1
前へ
/103ページ
次へ

08

 溜まった仕事に取り組みながら、俺は先輩に対する言い訳を考えていた。先輩は受験生だから頻繁には顔を出すことはないだろうけど、もし誰もいない生徒会室を見られた時のための言い訳を。 『何かあったらいつでも頼って欲しい。いいね?』  そう言ってくれたけど、やっぱり先輩に迷惑はかけられない。 「あー……、そろそろ新歓イベントの企画案も考えなきゃだ」  それ以外にも考えることも山ほどあって、相変わらず悩み事は増えて行く一方だ。ふと向かいの校舎の屋上を見上げる。フェンス越しに人影が見えた気がしたが、直ぐに見えなくなってしまった。  向かいの校舎の屋上は俺以外の役員のたまり場になっているとクラスメートが噂していた。それを初めて聞いたのは会長に就任して直ぐのことで、自分も同じメンバーでありながら初めて知った事実に思わず苦笑してしまったっけ。  そんな俺は他のメンバーに詳しい方ではなかった。俺が知るのは生徒会役員の引き継ぎの時に先輩から聞いた情報と、人気者故に自然と耳に入って来る噂から得る情報ぐらいだ。それでも会長である俺よりも公開されている情報は多いはずで、その事実にまた落ち込んでしまう。  生徒会役員が発表された時、校内新聞では役員達のプロフィールも一緒に発表された。  他のメンバーは好きな食べ物から好きなタイプまで詳細なプロフィールが掲載されていたが、俺のプロフィールは俺の簡単な家柄の紹介と在籍クラスと去年は補佐役だったと言う情報のみで、他のメンバーが1ページ丸々をプロフィールに割かれていたのに比べて、俺は数行で終わってしまっていたっけ。  まあ、認知度で考えてみたら仕方がないか。 「あ、一行ずれてる」  考え事をしながら作業していたからか、文章が一行足りなかった。 「うわー、どこからだろ……」  下書き用のノートとパソコン画面を見比べて、 「あ、ここだ」  問題の箇所が最後の数行であることにホッとする。 「んー……」  今日も珈琲が並々と注がれたマグカップを片手に、食後の眠気を紛らわせる。惣菜パンとおにぎり(+ペットボトルのお茶)だけの簡素な昼食だったのに、それでも食欲が満たされたからか眠気に襲われる。  珈琲をがぶ飲みしながら目を擦っていると、 「あれ、羽柴一人だけか?」  いつの間に入って来たのか、背後から誰かの声がした。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1218人が本棚に入れています
本棚に追加