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菱野幸祐くんとは、高三で同じクラスになった。
菱野くんはちょっとした有名人だった。色白で線が細くてきれいな顔立ちをしているのもあるけれど、いわゆるダブりで、私たちより一つ年上だ。
病気のせいだとか、悪い仲間と付き合ってて警察沙汰になったとか、家出してたからとか、色々噂されたが、結局のところ誰も留年した理由を知らなかった。そして新しいクラスでもあまり学校には来なかった。
たまに登校してくると、たいてい教室の真ん中で一人、居心地悪そうに眉間を寄せて目を閉じていた。私たちもどう扱ったらいいのかわからず、無視してはいなかったけれど、積極的に話しかける人もいなかった。
一方で卒業したはずの女の先輩が二人ほど、学校に彼を訪ねてきたこともあった。あとから聞いて驚いたのは、彼女たちは菱野くんの元カノだった。
菱野くんに「付き合ってください」と申し込むと、90%の確率で「いいよ」と返事が返ってくるらしい。まるで「消しゴムを貸して」と言われて「いいよ」と答えるのと同じくらい軽い調子だった。ただ、菱野くんからは何もアクションがないので、女の子の方が積極的にならないといけなかった。自分ばかりが頑張っているのは当然キツイし不安になるので、結局彼女の方から別れを告げてしまう。その際も彼は同じ笑顔で「いいよ」と言うそうだ。
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