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アンベルと光の声
「それじゃあ、あなたが光の声の持ち主?!」アンベルは信じられないと言った様子で見つめ返してきた。
「ああ、そうさ...」僕は自分でも聞こえないくらいに小さく呟いた。
「どうして今まで黙っていたの?」アンベルはそう言ってから、もしかしてと何かを悟ったような表情をした。
「...あの法律のせいなのね?」アンベルは恐る恐る、確かめるようにゆっくりと言葉を並べて僕に問った。
「ああ...」あの法律...そうあの法律。
アンベルはただの噂じゃなかったのねと顔をしかめた。
「怖くなったか?僕の事」大丈夫だと思って話したにも関わらず、心の隅で不安が渦を巻いている。
「怖くなるわけないじゃない。私たちはもう恋人よ、そんな簡単にあなたを恐れたりしないわ」アンベルは大丈夫よと自信満々な顔で言った。
「そうか...」僕はうつむきながら、考え込んだ。
僕たちが住む世界、悪魔と天使の楽園。人間が死んでから行く"天国"というものとは別の世界。僕たちはここで暮らしている。
自由に生きている。
家を建てるのも良し。その場で寝るのも良し。飛ぶのも良し。歌うのも良し。
そして、悪魔と天使の恋も良し。
今は、悪魔と天使の境界線などのない時代だ。大昔では、悪魔と天使の恋は法律で禁止されていたらしいが、今は違う。
三つの法律からはずされている。三つの法律は悪魔も天使も守らなければならない、唯一のルールだ。今世界の平和を守っている、悪魔のリリユ女王と天使のアイル王のご先祖様が決めた"法律"というもの。
一つ目、【どんな理由があろうとも相手を殺してはいけない(光の声の持ち主の場合、王と女王は処分して良しとする)】
二つ目、【光の声の持ち主は歌ってはいけない】
三つ目、【光の声の持ち主を見つけた場合、ただちに王、女王のところへ連れていかなければならない】
この三つだ。光の声を持っている悪魔や天使はすぐに王、女王のもとに差し出され殺される。
どうして、こんなに厳しいのか?僕も最初は不思議に思っていた。でも、光の声が"あんなに恐ろしいもの"だったなんて知らなかった。その事を知ってから怯えて暮らす毎日をおくっている。だけど、それも限界だった。精神がもたない。それで、さっき昔からの親友...今は恋人の天使アンベルに打ち明けた。これは、僕にとっては勇気のいることだった。
「ねえ、ハウィ。光の声を...き」アンベルが何か言いかけたときだった。
「アンベル~!ちょっと歌の練習に付き合ってほしいんだけど~」遠くの方から、アンベルを呼ぶ声が聞こえた。
「ごめんハウィ、私もう行くわね!」アンベルは翼を伸ばしながら立ち上がった。
「また明日な」僕がそう言い終わる前に、アンベルは空高く飛んでいった。
「さてと、帰るか」僕には、家がある。家族のいる家。でも、僕の帰りなんて待っていない。僕は邪魔物だ。
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