たそかれ

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黄昏が、何もない空を染め上げている。橙ともピンクとも紫ともつかない中途半端な色に、得もしれない不安が、胸をじわりと蝕んでいく。 ──彼は本当に、来てくれるのだろうか。 手にしたままの携帯で時刻を確認すれば、約束の時間より三十分も前。そんなにも早く着いていたのか。まだ現れないのは当然だ。 けれど、誰もいない橋、誰もいない河原……まるで時を止めたような静寂に胸がざわめく。果たしてわたしの時間はちゃんと進んでいるのか。あと数十分後、彼に会う未来は本当に訪れるのだろうか。 ──やめよう、子供の空想じゃあるまいし。 画面のデジタル表示が時を一分進めたのを見届けて、ようやく携帯を鞄にしまい込む。 すっかり秋めいてきた夕方の風は、足元を流れる川の水の冷気も運んでいるに違いない。思いのほか冷たくて、少し身を縮めた。 彼のためのお洒落など優先せず、素直に何か羽織ってくればよかった。白地に水色のストライプが入ったお気に入りのワンピースが、今はとても恨めしい。
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