第四話:死神教授とホーリーナイト

1/2
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

第四話:死神教授とホーリーナイト

 「プレゼントが欲しいぞ。」  来ましたよカンナ様の無茶振りが。しかし吾輩は動じない。総統閣下=カンナ様と伊達に長い間付き合っている訳ではない。こんな事を言い出すなど想定の範囲内である。  「クリスマスの事を仰られているなら、カンナ様、ご自分の立場というものを弁えて頂けませんといけませんな。」その言葉にむくれたように頬を膨らませるカンナ。「判っておる。チョーカーの総統たるものが、何処の馬の骨とも知れぬ神なるものに頭など下げるものか。」  そう言って黙り込むカンナ。いかん、これはまた良からぬ事を考え始めているな。  暫くして、子供らしからぬ腹黒さ剥き出しの笑顔を浮かべながら総統閣下=カンナはゆっくりと顔を上げた。あ、これは吾輩、詰んだな。そう直感したのだが、その数分後、総統閣下が披瀝した計画を聞いて吾輩も同様の笑顔を浮かべる事になる。なるほど、流石は我が総統閣下。黒い、実に黒いが素晴らしい作戦である。  そう言う事であればこの吾輩、少々の恥をかく事くらい、何でもありませんぞ。 ーーーーーーーーーーーーーーー  「一体何なのよこのハガキは!」今日もヒステリックなあの声が廊下に響き渡る。担当の事務官は太いため息をついた。ここは官庁街の、とあるビルにひっそりと設けられた事務所。だが、そこに至るには極めて厳重なセキュリティと、核や細菌兵器と言ったテロリスト達が好む、あらゆる攻撃方法を想定した防衛ラインを通過しなければ、辿り着くことさえ叶わない場所。  そう、ここは本邦政府直轄の、対チョーカー対策本部である。そして、前本部長である村松藤兵衛氏がオーストラリアに栄転(と言う名の逃避行)した後、満を持して送り込まれたその人こそ、林あさ子前国家公安委員長兼内閣調査室長である。  その肩書からすれば、さぞかし冷静沈着、目から鼻に抜ける切れ者である事が予想されるのだが…、事務官はもう一度ため息をつくと、村松前本部長が着任していた頃にはついぞ世話になることがなかった液体胃薬をそっと呷った。  「…何かありましたか?」努めて平静を装いながら、開け放しの扉をくぐり抜けると、いきなり丸めたゴミクズが飛んできた。それをひょい、と避けながらデスクに近寄る。事務方とは言え、そこは選び抜かれたチョーカー対策本部の一員。身体能力には些かの自信がある。もっとも胃腸の強さはまた、別問題であるが。  そう言えば、このクソ…失礼、多分にエキセントリックな本部長様が連れて来た対チョーカー特命刑事殿がまた、本部長に輪をかけたク…ではない非常に特殊な性格の人物であったのだが、初回の出撃で敢えなく敗北の憂き目に合い、現在集中治療室入りしているのは、正直大変有り難い状況である。敵ながらあっぱれと言わざるを得ない。  「何をボソっと突っ立ってるのよ。」陰険な性格そのものの声で本部長は言い、事務官に向けて一枚のハガキを無造作に突きつけた。受け取り、一読するなり、事務官は思わず唸ってしまった。『なるほど、こう来たか。』  それは、とあるパーティへの招待状であった。内容は、ありふれたクリスマスのプレゼント交換会。が、それにしては日付が一日だけ早い。いや、それより何より最大の問題は差出人がチョーカーであること、そしてその宛先はと言えば…。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!