第四話:死神教授とホーリーナイト

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 華やかな音楽に合わせて楽しそうに談笑する人々。一見すると、和気あいあいとした雰囲気ではあるが、大人たちはどの参加者も、ふとした瞬間に、どこか後ろめたそうな表情を垣間見せる。だが、弾けるような笑顔を見せる子供たちを見て、自分の選択は間違っていないと、改めて意を強くする。そんな不思議なプレゼント交換会が、ここ都内某所で開催されている。  そう言えば何とも言えない違和感を醸し出しているのは、会場で演奏されている音楽だ。どれも、耳に馴染んだクリスマスソングのようで居て、微妙にアレンジが施されており、良く聞くと別の曲であることが判る。飾り付けも、そこに書かれている文言も、クリスマスパーティのようで、そうではない。  「…盛況ですな。」「ああ、ここまで集まるとは、政府の連中、よほど懐に余裕が無いと見えるな。」可愛らしいステージ衣装に身を包んだカンナが、舞台の袖で吾輩と待機しながら満足そうな表情を浮かべて言う。実際、吾輩も蓋を開けてみたら、こんなに参加人数が多いと言う事に少なからず驚愕している次第だ。  いま会場を埋め尽くしているのは、最近我がチョーカーを悩ませている、ある組織の構成員と、その父母達である。その名を、『ニコタン少年隊』と言う。その名前から察することが出来るであろう。彼らは我々の動向を監視する目的で設立された、忠実かつ公然たる本邦政府の走狗共である。  さあ、いよいよ本日のメインイベント、一年ぶりに復活した、カンナ&死神教授ユニットの新曲発表ライブの開幕だ。  二人がステージに登場するやいなや、会場の興奮は最高潮に達した。実を言えば、ここに参加している大人たちは全て、一人残らず本邦政府の末端公務員である。彼らは僅かな報酬ではあっても、苦しい家計を少しでも補うため、半ば強制的に、泣く泣く可愛い我が子にスパイ活動をさせているのだ。  年端の行かない子供たちは純粋だ。大人たちに言われるがまま、正義の名の下に我々を尾行し、時にはアジトにまで潜り込んでくる。その度に貴重な戦力である戦闘員や怪人たちが手間や時間を取られ、彼らを傷つけないよう、細心の注意を払いながら丁重に、かつ断固として排除しなくてはならなくなる。  場所が露見した以上、もはやアジトは放棄しなくてはならないから、そう言った細々とした事に掛かる経費も、侮れないレベルで増加している。  誰が考えたかは知らないが、こちらの弱味につけ込む、実に悪辣なやり口だ。  「遠慮は無用!今夜は全てを忘れ、存分に楽しむが良い。明日からまた敵味方に別れたとしても、我々は根に持ったりはせぬ。今日の事は決して外には漏らさぬ。お前達の秘密は必ず守ると約束するぞ!」曲の合間にカンナと息の合った軽妙なMCを披露してやれば、観客の中には感激の余り涙を拭っている者たちさえ居る。うむ、これはまんまと落ちたな。そう吾輩は確信した。  …ん?何故スパイと解っていながら、この機に彼らを始末しないか、だと?  我がチョーカーを見くびってもらっては困るな。  『侵略するが筋は通す。』何度も言うが、これが我々チョーカーの流儀である。女子供に手を出すなどはもってのほか。敵が汚い手を使ってくるのであれば、こちらはあくまでもスマートな方法でやり返すのみ、である。まあ、今回の作戦を立案したのは吾輩ではなく、傍らで子供とは思えぬ華麗なステップを踏む総統閣下なのであるが。  かくしてイベント翌日から、目に見えてニコタン少年隊の諜報活動が低調になり、こちらが何も言わずとも、何が起こったのかを嫌と言うほど悟ったチョーカー対策本部室が阿鼻叫喚の様相を呈し、耐え切れなくなった事務官たちが挙って辞表を提出、ついには機能不全に追い込まれたことを、無論吾輩たちは知る由もないのであった。  『全てを我が物に。我が物は全て総統閣下の物に。ヘル、チョーカー。』
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