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「お、お館様!!!天が怒り狂い、山肌が崩れました!」
「これは、贄に涼音様を捧げた祟りにございます!」
「姫様が祟り神となって甦ったと騒ぎになっております!」
そうこうする内に、次々と家臣らの騒ぎ立てる声が屋敷に轟いた。視察に出ていた者らが帰って来たのだ。彼らの怒号のような声は、涼音を贄としたことへの当て付けでもあった。
「くっくく、面倒なことになる前に去った方がよさそうだ」と、鬼神は腹を抱えて、身を捩る。
「我の約束は果たされた。娘は我が貰い受ける」
鬼神の言に涼と義治は息を飲む。
義治は『稲穂』の太刀を鞘に納めて、鬼神の前に膝をついた。
「これは国の宝『稲穂』、娘もこれに同じ」
どうか娘の代わりにと、手を掲げて捧げられたそれに、そっと手を添え押し返した者がいる。
(いつの間に目覚めたのか……)
「これは私の意思で決めたこと。理不尽に流される訳ではありません」
そして、涼音は先達ての日と同じように、父の前で綺麗に指を揃えて手を付いた。
「親不孝をお許しください。涼音はこれより鬼神殿と共に生きまする」
「それがお前の望みか?」
「はい、涼音は果報者にございます」
偽りなく笑う顔に、やはり桜のように美しい娘だと、義治も笑っていた。
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