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ぽっかりと穴が開いたような寂しさに、気づかぬふりをして涼音は目を閉じる。多くを望んではいけないと、心を戒めの鎖で縛りながらその夜は眠りに着いた。
気付けば、靄のかかる先の見えない道を、夜着だけを纏って歩いていた。
(ああ。また夢を見ているな)
どうやら私も彷徨っているようだと自嘲を零す。
「っ(痛)」
裸足の足裏に何やら鋭利な欠片が突き刺さった。
見遣れば、深々と喰い込んだようで、血が滲み出す。
見渡せば、辺り一帯まさに茨の道。
『痛いよなぁ。血に汚れて心折れるが良いわ……』
水盆の底に映る涼音を盗み見て、王旭は目を細めた。
それから鶏の首を斬り、水盆にその血を垂らせて、王旭は呪術を唱えた。
首から流れ出る血が水の底へと向かって、褥に眠る涼音に纏わりつくように揺蕩う。
『その場で動かずに、目が覚めるのを待ってみるか?』
『くっくっくっ、できまいよ』
鏃のように鋭利な黒曜石が、赤く熱を持ち始めた。
『そうら、此処は地獄の針山、カチカチ山よ。跳ねて踊らねば焼け焦げるぞ?』
白い滑らかな足が傷だらけになり、焼け爛れる。
その様を覗き見ようと王旭は水盆に身を乗り出した。
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