赤い糸

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「狩衣姿もだけど、白拍子のその姿も似合っているね」  涼音の今宵の出で立ちは、緋袴の水干に、立烏帽子、白鞘巻きを腰に挿した白拍子の凛々しい風情。  普段が男装だけに、髪を下ろしているせいか、こちらの方が女性らしく見える。 「それにそれは、天狗に見立てているのかな?」 弓削に指摘された手に、涼音が握り込んでいるのは赤鬼の片面だった。 『少しは皆にも顔見せせねば、(ひが)もうからな』とは左大臣の言だった。 涼音としては僻まれることなど無いだろうと思うのだが、言われるままに受け取っていた。 「左大臣の見立てです。鞍馬天狗と白拍子。双方を取り入れたいと仰せでしたので……」 陰陽師の要素はきっとどうでも良いのだろう。 涼音の出で立ちを見て、子供のようにはしゃいでいた左大臣を思い出し、ふっと、笑みを零した。そして、まるで眼帯のようなそれを顔に当てようとすれば、「待ちなさい。結んで差し上げよう」と、弓削が涼音の背後に回って、紐を結んでくれる。 「涼殿、困ったことがあれば相談に乗れるよ」 結びながら突然に話を振る弓削に、思わず肩を強張らせてしまった。 「やはり……憑いているように見えますか?」 鬼の面を填めたというのに、まるで覇気の無い、心許ない娘が浮き彫りだった。 弓削は静かに頷きで返した。 「流石ですね」 ここは不浄を寄せ付けない大内裏の結界内。 今は大人しくしているようだが、やはり、見るものが視れば視えるのだ。 「でも、これは私の務めですので」 涼音は大丈夫だと気丈に胸を張る。 「一人で祓うのはね、危険なのだよ。だから私も大抵は川仁と行動を共にしている」 「そうだな。大抵は俺が連れまわされる羽目になる」 余程苦労しているのだろう。振り回される川仁が容易に想像できてしまい、涼音は苦笑した。  そうだ。これまでは涼音もクロネコと一緒だった。 一緒ならば何も怖くは無かった。こんなに心が揺らぐことも無かったのだ。  けれど、それを言ったところで詮無いことだと頭を振る。  己で決めて、己で進んできた道だ。 泣き言など言いたく無かった。泣くなどもっての外、論外だ。 なのに弓削と川仁を前にして己の弱さ、未熟さを痛感して、零したくないものまで零してしまいそうだった。 『これで鞍馬小天狗とは……笑わせるなぁ』 (うつつ)であるにも関わらず、耳奥ではそんな嘲笑が聞こえてきそうだ。元より知ったことではないが、現にまで手を出し始めている元凶に脅威を感じずにはいられない。 悪夢は執拗なまでに夜毎続き、祓っても、祓っても糸口がまるで掴めない。 その内に負けてしまうのではないか、そんな心細さに苛まれ始めていた。 「涼殿、縁だとは思わないか?」 頑なに、己だけで立とうとする涼音に、弓削は静かに語り掛けた。 「あの橋で出会い、そして今この時、この場所であなたは私たちに出会っている」 「私があなたの異変に気付いたのは、きっと、あなたを守護する者の導きがあってのものだよ」
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