桜の娘

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『太刀に『稲穂』???』 幼い涼音と涼が同じ顔つきで父の父役、お(じい)に問い掛けたのは記憶に薄い。 『稲穂とは無暗に振るうだけでは切れぬものです。こうして手にかけてやらねば切れませぬ』 稲を鷲掴み、鎌を振るう仕草をして見せれば、二人の眼にはたわわに実った稲穂が安易に視えた。此処は肥沃な土壌に恵まれ、本来は実り豊かな土地だったのだ。 『そんな稲穂さえも容易く斬れるほどの名刀。そういう意味ですが、国の宝には国の宝の名が相応しい。単純にそうは思われませんか?』 陽に焼けたお爺の顔がにっかりと笑んで、太刀の由来を教えてくれた。 「涼音、実の子を手に掛ける父を許せ」 父はスラリと『稲穂』を抜いた。 涼音の横を過ぎる時、父はぼそりと零したのだ。 「二度もな……」と。 その言葉に、涼音の何かが弾けた。  (りょう)を斬らんと太刀を構える父の前に、涼音は両手を一杯に広げて立ち塞がる。 「そのようなことは二度と、させませぬっ!!!」 父に与えた不孝を自覚した。  人身御供として流される決意を秘めた時、ただ己だけのことしか目を向けてはいなかった。 「これは私の招いた咎です。私が祓います」 涼音は陰陽道など未だ露ほども知らない。 ただ、鬼神と縁を結んだが為に、視えるようになった。 ただそれだけだ。 「で、どうする気だ?」 興が湧いたかのような目で、鬼神は涼音を見下ろした。 「ね、姉さん……、だ、駄目だ」 「涼、あなたは贖罪しなければならない。言い訳も、詭弁も許しません。今後の生はこの領地の民の為だけに全身全霊を捧げなさい。良いですね?」 けれど、伸ばした涼音の手を払いのけるように、(りょう)は拒んで、身を(よじ)った。
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