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疲れていたというのに、弓削に川仁、そして彦左の見守る中では寝ようにも眠れない。
(ど、どうすれば……。寝ようと思えば思うほどに眠れない)
「涼殿、眠れない?」
「す、すいません。そうですね……、落ち着かなくて」
「そうだね。なら、少し話でもしていれば落ち着くのではないかな?」
話していれば益々眠れない気もするが、取り敢えず身を起こそうとすれば、留められてしまう。
「そのままでね。私の声は子守歌だとでも思っていればいいよ」
(こ、子守歌……?)
弓削にとっては、涼音などは赤子のようなものなのかもしれないと、その言葉に少し気が楽になる。
「さて、何を話そうかな?」
「そうですね……。では、どうして弓削様は陰陽師に?」
「私の祖先は……元々は、弓を作るのに秀でた一族でね。神事に用いる神弓を扱う者らだった」
刀や鉾もだが、良い弓には神が宿る。それを、神弓と呼んだ。年の初めに、神前にて神弓を四方に放てば、邪気を払い、春を呼び込むとされている。
「そんなこともあってか、あなたと同じで人ならざる者らの友が多いのだよ」
弓削の声音はゆっくりと、それでいて静かな口調だった。
「幼い頃から恐ろしくは無かったのですか?」
陰陽師は恐れてはならない。
良き者らにとっては無礼に当たり、不味い者らにとっては付け入る隙となる。
「物心などつく前からの話だからね。たしかに、不味い者らもいた。でも、それらから助けてくれる者も必ずいてくれた」
弓削は昔を懐かしむように穏やかに微笑んだ。
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