赤い糸

20/24
前へ
/37ページ
次へ
「なぁ、お主。そろそろ戻った方がいいのではないか?」 「はぁあぁ?」 怒気の籠った濁音でクロネコは、酒杯に舌を這わせた。 「これ、黒いのっ!『琵琶弾(びわひき)』をビビらすでない。音が割れるであろうが」 げっそりとした布袋様もどきの『(てる)』が叱責するも、クロネコに睨み付けられ、隣に座る『暖簾(のれん)』に思わず抱き付いた。長い前髪に付いた玉をカチカチとかち合わせながら、暖簾もコクコクと頷くが、クロネコの尻尾がバシッと、飛んできてヒュ~ンと弾かれる。 ボスっとそれを受け止めたのは一つ目の毛玉。 『これまでは小天狗の手綱があってこそ何とかなっておったのだ……』 『あれに彷徨われては、世も末というもの』 およそ幽鬼のように、彼らは消えてしまいそうに囁き合う。 『それに、華が無ければ宴会も盛り上がらぬわ……』 『儂ら端から華見たさに追っかけてるんだ。黒いのだけなら儂ら帰るぞ?』 『これは、小天狗に引き取りに来てもらおうぞ』 九十九神らは、総員一致で『んだ、んだ』と、頷き合っているところだった。 『おいっ!大変だ!小天狗の危機だぞ!』と、乗り込んできたのは古い香炉の『花咲爺(はなさかじい)』だった。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加