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東の空が白じむ頃、いつものように境内を掃除し始める僧らは、誰しもがその異変に気付く。清浄な朝に水を差す異臭。
「王旭殿、これは如何に……!!!」
突然立ち込めて来た異様な臭気に、血相を変えた僧らが袖で鼻を覆いながら、王旭に貸し与えていた庵に押し掛けた。否応なしに室内に立ち入った僧らは言葉を詰まらせる。
「なっ!?」
王旭の姿は最早そこになかった。
あるのは塵芥のように其処かしこに無惨に散らかされた屍と、割れた水盆。ぴちゃぴちゃと、卓から零れ落ちているのは、血であろう赤黒い雫。目を背けるような惨状に、ぞっと悪寒を走らせた。おびただしい屍は獣や何か――それに考えを巡らせることが恐ろしい。
(あれに視えるは……ひ、人ではなかろうな?いや……まさか)
「こ、これは……これが人のする所業か……?」
「我らが見ていたのは人では無く、鬼だったのか……?」
以来、南都に確かに居た筈の王旭という名の男の姿を見た者はいない。
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