桜の娘

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「触れ……るな。姉さんまで……」 ただ、羨ましかった。妬ましかった。 そして、眩しかった。 それだけだ。  何をしても秀でて、聡い姉が誇らしくもあり、妬ましくもあったのだ。 姉が自分に扮して、里へ下りては領民らと接していることを涼は知っていた。 朗らかに笑う彼らと姉を見て、涼の心に仄暗い闇が顔を出す。 「俺の前ではヘコヘコするだけなのに……」 大抵は従者を引き連れている涼は、一目置かれはしても、領民らと打ち解けられずにいた。巧く信頼関係を築けていないと肌で感じていたのだ。 従者の有無は関係しない。 「父上はちゃんとできているのに……」 そんな折だ。 父と家臣の者らが話す声を耳にしたのは。 「涼音様も十四に成られましたからね」 (なんだ?また、縁談の話か?)  近頃、姉の縁談がひっきりなしに舞い込んできているのは知っていた。 真実はともかくとして、深窓の姫君と言って然るべき立場だ。 それは当然なのだが、父が縁談を進めようとしないことが不思議でもあった。 (まさか、小野の嫡子に姉を立てようとしている?) そう考えてもおかしくないほどの逸材だとは、涼も認めざるを得なかった。 「涼様(りょうさま)は少々真面目が過ぎる感がございますね」 家臣の言葉にハッと我に返る。 「はははっ。結構、結構。あれはまだまだこれからよ」 父は笑い飛ばしてくれたが、涼の心の闇は深まった。
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