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いつまでも降り止むことのない雨。
(まさか、そんな……)
贄に捧げたのは飛蝗。
蝗害と呼ぶべきそれは、作物を枯らし、稲を頬張る。
一石二鳥と安易に考えた。
一日、二日……気づけば両の手では数えられないほどになった。
止まない雨を見ているうちに怖くなり、気がおかしくなりそうだった。
祈祷師に詰め寄るも、下卑た目を細めて口角を上げる。
「そんなことを教えた記憶はございません。あると言い張られるのであれば、それはあなた様が呼び込んだ鬼の化けた姿だったのやも」
内密に事を運ぼうと、従者を連れて来なかったのが不味かった。
「くっ……」
愚鈍な方ではないが、如何せん大の大人の力には抗えなかった。
床に押さえ込まれて、帯を解かれる。
「なっ!?……何をする!!!」
「鬼付きには、鬼祓いが必要であろう?」
祈祷師の掲げた指には箏を爪弾くに使うような、それよりも鋭利な金具が填められていた。
開けた胸元にそれを這わせる。
怖気に叫ぼうとした口は呪符を詰め込まれて塞がれた。
そして、胸元の皮膚を薄く切り裂き、五芒星を描かれる。
痛みよりも、屈辱と怒りに目の前が赤く染まるなどと言うことを初めて知った。
「恐れるに足らず、守護星ですよ」
やんわりと笑みを見せる祈祷師は、嘘のように穏やかな表情をしていた。
まるで夢か幻を見ていた心地になる。
確かめた胸元には五芒星など刻まれてもいない。
もはや何が現で、何が夢か分からなくなり呆然と立ち尽くしていた。
「誰にでも付け入る隙というのがございます。付け入られますな、気づけば贄とされたなどとはよく聞く話ですのでね」
肌を撫でられ、うっそりと耳元で囁かれる。
このような恥辱、誰にも言う訳にはいかなかった。
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