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「呪詛よ、私に還りなさい。お前は間違った者に還っているよ。器となるのはこの私だ」
目を瞠った涼を、涼音は有無を言わさず抱き締めた。
涼の目から涙が伝う。
「本当に、莫迦だなぁ……」
「そうね。あなたの姉だもの。とっくに知っているでしょう?」
涼の身体をどす黒く蝕んでいた穢れが全て涼音に還る。
白く、美しい涼音の身体に蠢くように呪詛が移り、怨嗟が刻まれる。
これは無情に散らされた領民らの心なのだろう。
そう思えば、不思議とまるで怖くは無かった。
寧ろ、愛しいと涙が伝った。
(ごめんね、救ってあげられなくて……)
たわわに実った稲穂の下で、共に笑っていた眩しい日々を思い出した。
「遊ぼう?」と、はにかんで笑った子らの、繋いだ手の温かさを思い出す。
(共に御仏の下へ参りましょう)
こちらにおいでと誘うように、涼音は穢れをその身に全て取り込んだのだ。
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