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ムーディーなジャズが流れるなか、年齢不祥のマスターがワイングラスを磨いている。イノクマさんから向かって左側に位置する斜め向かいの席に、鼻眼鏡をかけた奇異な黒猫が座り、タピオカをつまみにしてハイボールを飲んでいる。
イノクマさんの隣に座っている眼鏡をかけた美青年おるも、静かにワイングラスを傾け、一人酒を楽しんでいた。
おるの目の前には、ウィスキーグラスに浸り、リラックスした様子の可憐な花の姿が。イノクマさんから向かって右側の斜め向かいの席に当たる場所には美少年アラタが座り、ノンアルコールカクテルをこくこく飲み干すと、マスターにおかわりを頼んでいた。
穏やかすぎる時間がbarに流れるなか、イノクマさんが静かに、口を開く。
「ねえ、シキくん。
さっきの、ごれんじゃいって、なんだったの?」
その瞬間、マスターのアヤセは、静かにワイングラスをシンクに置いた。
「……ヒーローです……」
視線をそらし、首まで真っ赤になりながら、マスターは消え入りそうな声で言った。
「その、ヒーローっていうのは、一体……」
「イノクマ先生、それ以上掘り下げないで……!」
マスターは恥ずかしさのあまり両手で顔をおおい、天をあおいだ。
「どうやらマスターは照れて説明出来ないみたいだから、その疑問、私が代わりにお答えするわ」
ワイングラスを揺らしながら、美青年おるが流し目でイノクマさんをみて言った。
「ごれんじゃい……それは、ストレス社会に一石を投じる存在よ」
「……ストレス社会に、一石を投じる存在……、とは。」
神妙な顔つきで続きを促すイノクマさんに、向かって右側の斜め向かいの席に座っていた美少アラタが、前のめりになりながらどや顔で言った。
「ストレスを、ハグで撃退するのです!」
「ハグで……!」
衝撃の答えにイノクマさんが白目を向いていると、鼻眼鏡をかけた奇異な黒猫がタピオカを頬張りながら、それに続けた。
「そう。……ハグはね、世界を救うの……!」
奇異な黒猫が鼻眼鏡を光らせながら叫び、立ち上がった。それを合図に、美少年アラタや眼鏡の美青年おるも立ち上がり、静かにイノクマさんを取り囲んだ。
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