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佐藤と三塚 合コンの話ー3
「なんだよー、酔いが醒めたって言ったじゃん」
そう言って、タケルが背中を向けた俺の腕を引っ張った。だが、俺はなんだか収まらない。
「寝ろ、寝ろ、寝ちまえ。タケルなんかっ」
「じゃあ、寝る」
喧嘩になるだろうと、嫌だけど無視されるよりはまだマシかもと思っていたのに。あっさりと寝ることにしたタケルは「よっこいしょ」と立ち上がった。
「タケル、寝るのか」
「寝ろって言ったの、おまえじゃんか。大売出しみたいに寝ろ、寝ろ言ったくせに。行こうぜ、寝室」
「は?」
今度は俺が間の抜けた声を出した。行こうって一緒に? それって? まさか……?
「これからエッチするってこと?」
「ばっ、何ずばり言ってんだよ。おまえバカ?」
真っ赤になったタケルが大慌てで握っていた手を振り解いた。
「タケル、行こう。今日はがんばります!」
「頑張らんでいいし。大声出すなアホ」
んなこと言われたって嬉しい心に蓋なんかできない。離れて歩こうとしたタケルを両手で拘束して抱きしめる。
「ぎゃああ、何する。苦しいだろ、止めろダイ。おまえって変なやつ」
「変でもいい。タケルが誘ってくれるなんて俺もう爆発しそう」
「やっぱり、止める」
逃げ出そうとするタケルを全力で宥めすかしながら寝室を目指す。
「電気消せよっ」
「今日はこのままでいいだろ?」
強引にベッドにもつれ込もうとした俺の腹にまたもやタケルの肘が入る。
「ううっ」
「もう一回言うぞ、電気消せ、ダイ」
「……分かったよ」なんだか今日はいいかもと思ったのに。やっぱりダメ出しが出てしまう。タケルは絶対明るいとこでのエッチは嫌だと譲らない。だけど、俺はタケルのピンと張った体を眺めたい。俺の愛撫に乱れるときの表情も見たいし、イく顔も見たいのに。
「テーブルランプはいいだろ?」
ぼんやりとオレンジの光りを放つベッドサイドのテーブルにあるランプを眺めてタケルは渋々と頷いた。
「何でダメ? 俺の顔見ると萎える?」
聞きたくなかったけど、本当はこれが一番知りたかったことだ。もしかして自分が男に抱かれているという現実を受け入れられていないのか。男の俺が相手だと白日に晒された途端にソノ気が失せる、そういう事だったらどうしたらいいのか。
ベッドに中学生のカップルみたいに二人で並んで座っていた。
「やっぱり、女の子がいいのか。例の黒ワンピースの女とか」
こんなこと言いたくないのに口から出てしまう。せっかくタケルが誘ってくれたのに俺は。そう思うのに止められない。俺ってこんなに僻みっぽかった?
「おんなのこ?」
薄暗がりでタケルが俺の言葉をそのまま疑問符をつけて返す。暫くの間のあとに焦ったみたいに言葉が続いた。
「何? さっきのショートメールの事気にしてるのか、ダイ?」
「当たり前じゃないか。自分の恋人が合コンで女の子と連絡先の交換したのを知って良かったなとか思う奴なんかいないよ」
「ごめん」
あっそうかと言うため息混じりの声が聞こえた。そして俺の横にタケルがぴったりと体をずらしてくる。
「無神経でごめん。話盛り上がっちゃって」
「盛り上がった?」
なんだよ、おまえ俺に止めさす気? がっくりきた俺と対象的に弾むタケルの声が耳に痛い。
「うん、週明け会社に行っていいって。総務の子にも紹介してもらえるって言われて。なんかすっげぇ契約取れそうなんだよ。月末待たずにノルマ達成かも、俺」
「契約?」
そうそうとタケルが嬉しそうに頷く。何おまえ、合コンでうちの金融商品勧誘してたの?
「だから俺嬉しくってさ」
そういえば、今日の合コンに俺が行ったのも、それつながりだった。なんだか体を必死で支えていたものが今ガラガラと音を立てて倒れたみたいに力が抜ける。
タケルが仕事熱心なのは認めるよ、だけどさ。一言言わせろ。
「仕事引き摺りすぎだ、タケル」
「うん、だからごめんって。俺別におまえが男だからって萎えたりしてないぞ」
そ、そうなの?
「じゃあ、何で?」
「そ、そりゃあ……」急にタケルの言葉に勢いが無くなった。
「それは?」
ええとあのさ、そう何回も言いながらなかなか本題に話が辿り付かない。今度はどんな爆弾を仕込んでいるのかと思いながらタケルの表情を窺うように体をタケルに傾けた。
「だって、俺が変な声出してんだぜ。俺がその……足広げてさ。ちょっとそんなの気持ち悪いだろ。萎えんのはおまえじゃないのか、ダイ。俺のバカっぽい顔や、脛毛や、ごつい体やもうひっくるめて全部見られるのなんて嫌だね」
そういうわけだったの? ばか、ばか、タケルの大ばか野郎。
「俺、タケルの脛毛好きだよ。いや、他のとこも全部。俺タケルのもんなら何でも好きでエロく感じる。声だってなんだってもう最高にエロいじゃないか」
「エロくないぞ、俺。おまえみたいに綺麗じゃないし、手足長くないし、えっとそれから……」
もう聞かない。タケルの口を塞ぐようにキスをしかけてそのまま体を倒した。そんな可愛い事考えているなんてもう我慢もマックスだ。
唯一はいていたパンツも足で引っ掛けて蹴り飛ばして脱がした。四の五の言う口を塞いだまま、程よい筋肉のついた胸から脇腹を触りながらもう片方を下に伸ばす。
「ちょ、ちょっとダイ……待てって」
「いや待てない。俺もう待てないから」
そう言ってタケルのモノを握りこむと、ぎゃんという犬の鳴き声みたいな声が聞こえた。
ああ、俺はこんな声でもボルテージ上げられるんだって。
タケルは知っているんだろうかと火傷するくらいに熱くなった頭のどこかで俺は思った。
おわり
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