三章 天狗攫い

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 三人は鬱蒼とした森の奥にぽつんと建つ秘密基地に辿り着いた。 始めから鍵はかかっていなかった故に鍵は存在しない。この扉に錠をかける方法は内鍵のみである。まず、内鍵はかかってないだろうか。 義圭は恐る恐るドアノブを回した。中に誰もいないことを確認し、内部捜索(クリアリング)に入る。 テーブル前…… クリア。 マットレス前…… クリア。 キッチン(冷蔵庫しか使ったことないけど)…… クリア。 トイレ…… 無意味に便器を開けてチェックして、クリア。 ロフト…… 三人で集めたガラクタがあるだけで人がいる気配はない、クリア。 義圭は玄関に戻り、手招きをする。銀男はそれを見て桜貝を背負ったまま体勢を低くして秘密基地の中に入った。 銀男は窓際にマットレスがあるのを見つけると、桜貝をそこに寝かせ、タオルケットを上からかけた。 「備え付けのタオルとかあるかい?」と、言いながら銀男はキッチンの開き戸を開けた。引き戸の中にはキッチンペーパーが積み上げられていた。 「無いよりはマシか」 銀男は何枚も重ねたキッチンペーパーを水道の水で濡らし、それを軽く叩きつけるように絞り、桜貝の額の上に乗せた。 「さくら…… とりあえずこれで落ち着けますね」 「誰にも言えない以上は彼女を連れて村から出た方がいい。後は警察(おかみ)の仕事だ」 「じゃあ、家帰って地元警察に電話しますよ」 「地元警察かぁ…… 地元だとグルの可能性がゼロじゃないからねぇ。出来れば別の管轄区域の警察に介入させた方がいいい」 過剰に疑り深い人だな…… 慎重と言うべきだろうか。義圭は眉を顰めた。 「あの亡くなったお嬢さんをダシにする…… と、言うと悪いが、あのお嬢さんが住んでいる地域の警察に介入してもらうのが手っ取り早い」 安里から名刺を貰っていたことを思い出した義圭は財布から名刺を出した。 名刺には東京の名前も知らない大学名が書かれていた。銀男はそれを見て頷いた。 「警視庁に天下御免で来てもらう必要がありそうだ。まぁ、すぐに遺骨回収で鑑識様の団体が来ることになるだろうけどね」
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