三章 天狗攫い

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 周りの森の樹々のざわめきが聞こえる。そのざわめきに合わせてカラスが カー、カー と鳴き始めた。 その時、ドアノブがガチャガチャと音を立てた。二人は息を潜めてテーブルの下に隠れた。だが、その音はすぐに止んだ。 そして、ドアを開けようとした者はドアの隣にある窓を覗きにかかった。 テーブルの下にいればその窓から見えることはない、桜貝も西側の高い位置にある窓際で寝かせてある、東側のドアも覗くには高い位置にある、北側には明り取りの為の小窓しかない。つまり、唯一中を覗ける窓から見ても中にいる者の姿は確認出来ないということである。 義圭は少しだけ首を伸ばし、ドア隣の窓から覗く者の正体を確認した。 知らない人間であればそのまま…… 唯一知ってるものであれば…… 後者だった。日に焼けた精悍な顔、兼一の顔だった。義圭が崖から滑り落ちたことで別れて数時間しか経っていないのだが、まるで一年に一回会う夏休みの時の別離期間以上に長く感じ、窓から見える褐色の顔を見ただけでも激しく嬉しく感じるのであった。義圭は飛び出してドアを開けようとしたが、銀男に手を握られ、止められてしまった。 二人は小声でやり取りを始めた。 「何するんですか?」 「彼は信用できるのか?」 「出来ますよ」 今は村の大人皆が信用できない。ならば村の子供はどうだろうか?  子供は親に報告するもの。銀男は村の人間全てを疑ってかかっていた。 「あいつ、この娘の彼氏なんです」 彼氏であれば大丈夫か。私も多少疑心暗鬼が過ぎたようだ。銀男は義圭の手を放した。 義圭はすぐにドアに駆け寄り、激しく扉を開けた。 「ケンちゃん!」 「よっちゃん!」 二人は抱きしめ合い再会を喜んだ。感動の再会もそこそこに彼らは中に入り、すぐさまに内鍵を閉める。 「お前、どうやってここに戻ってきたんだよ。俺なんて野犬に追われて走って逃げて大変だったんだぞ」 「あの時はごめん…… あの後色々あったんだよ! そうだ! さくらを見つけたんだ!」 「ホントかよ!」 兼一は慌てて桜貝が寝かされているマットレスの元に走った。姿を見るなりにまだ眠り続ける彼女の手を握り、泣きながら微笑み、再会を喜んだ。 少し後、涙を拭いながら兼一は義圭に尋ねた。
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