三章 天狗攫い

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「さくらはどこにいたんだ? お前、どこで見つけたんだよ! お前、ボロボロだけど何があったんだ!」 「話すと長いんだけど……」 義圭は兼一にこれまであったことを全て話した。時折、うまく説明出来ないことが出てくるのだが、その部分はいつの間にかテーブルの下から出てきた銀男が補足説明を入れる。 銀男の姿を見た兼一は敵意たっぷりの顔を見せたが、義圭の説得でどうにか納得するのであった。 「訳わかんねぇよ。この村には地下迷宮があったとか、本物の天狗がいて、それがとんでもないサイコ野郎だとか。何よりも天狗攫いの正体だ。いくらこの村がド田舎でも生贄の儀式なんて時代錯誤もいいとこだ! んで、今回の生贄がさくらだって!? 冗談じゃねぇよ!」 「あんまりがなりたてるなよ。俺だって頭ン中グシャグシャなんだよ」 「お前が嘘言ってると思いてぇよ。でも、さくらだって生贄の服着させられてんし、そこの余所者(よそもん)だって同じもの見てるって言うんだから信じざるを得ねぇ。何より、お前が嘘つくわけがない」 「ケンちゃん……」 そう言われて義圭の胸は熱くなった。15年の短い人生ながら、言われたセリフの中で一番嬉しく感じたセリフであった。 「なぁ、アンタ医者の先生だろ? 応急手当を頼みてぇ。それと、頼み聞いてくれねぇか?」 兼一は急に銀男に問いかけた。その瞳は真剣そのものだった。 「ええ。心療内科ですが、彼女の応急手当ぐらいなら出来ますよ。それで頼みとは?」 「余所者(よそもん)にこんなことは頼みたくねぇんだけど、さくらを別の町に連れて行ってくんねぇか?」 「どういうことでしょうか」 「だってそうだろ? この村の大人が信用出来ないってことだろ? 大人に発見(みつ)かったら、さくらはまた生贄にされちまうかもしれないってことだろ? だったらこんな村なんかにいさせらんねぇ」 「それは構いませんよ。その方が彼女の安全には一番良いですね。私も死体を見てるので警視庁に言うつもりです。あなたは良いのですか?」 「何がだよ」 「あなたはこの村の子でしょう? この村の決まりに従うなら生贄の儀式は遂行された方が良いのでは」 「馬鹿野郎! 俺を見くびるな! 村の決まりなんか知らねぇよ! さくらをこんな意味のわかんねぇ儀式で殺したくねぇよ! アンタ! 外に出たら全てを明らかにしてくれよ! こんな野蛮なことやめさせてくれよ!」 「やめさせることが出来るかどうかはわかりませんが、全てを明らかにすることだけは約束しましょう。でも、その前に……」
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