三章 天狗攫い

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「何だよ」 「あなたの服でも良いので、彼女に着せる服を。後、救急箱か何かあれば有り難いです。傷口の消毒とかもしたいのですが。後、ついでに食料も……」 「分かった。こいつの服だったら、俺の家に鞄一式置いてある」 「なるべく人目に触れず、尾行に気をつけてください」 兼一はサムズアップのポーズをとった後、バンガローから外に出た。 とりあえず、桜貝の応急処置の目処は立った。銀男は安堵し、テーブルに突っ伏して倒れた。 「今日は色々ありすぎて疲れたよ。こんな日は人生で二回目だよ」 「本当にすいません…… 巻き込んでしまって」 「君が謝ることはない。そうそう、これから先のことなんだけどね」 銀男は義圭にこれから先の予定の説明を行った。 まず、兼一が持ってきた救急箱で桜貝の応急処置を行う。そして、村人達の捜索が終わる時間(6時であることは説明済)までこの秘密基地で待機。捜索隊が解散したところで、銀男が志津香の家に停車(今日は霧も濃いことから徒歩移動だった)していた車を回収し、秘密基地まで運ぶ。そして車に桜貝を乗せて夜のうちに雨翔村を脱出。脱出後は他県警の警察に全てを話して介入してもらう。と、言った流れである。 「彼女にはどう言うつもりですか? 目が覚めたら、いきなり知らない人の車に乗ってたなんてホラーもいいところですよ」 「事情説明の為に君も一緒に村を出てもらおうと思うのだが…… いいかね?」 「構いませんよ、どうせ出るつもりだったんで」 「希望するなら、阿部くんも一緒に乗ってもらうつもりだ」 義圭は疲れたような顔をしてテーブルの上でぐったりとした。すぐに立ち直り、体を銀男の方に向ける。 「すいません、本当に親切にしてもらって」 「いやいや、人に親切にするのは当たり前だよ」 「僕が天狗に首掴まれた時、どうして逃げなかったんですか?」 「何かね? いきなり?」 「ちょっと考えたんですけど、あの時逃げるチャンスでしたよね? それなのに逃げないでいてくれて嬉しかったんですけど…… 僕の知っている大人、中学の先生とかだったら間違いなく逃げてるかなって…… それに、桜貝だってぶっちゃけた話、足手まといでしかないのに見捨てずにいてくれて」 「人を助けるのは当たり前だよ。後、言うなら…… 君たちのように田舎の因習に巻き込まれる子供を放っておけなかったってのもあるかな?」 「田舎の因習に巻き込まれた患者さんがいたんですか?」
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