一章 天狗の仕業

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桜貝も紗弥加のことは「近所の幼馴染の大好きなお姉ちゃん」と思っていた。昔から一緒に遊んでくれたし、世話もしてくれた相手だけにその喪失は悲しいものであった。 兼一と桜貝が昔話に花を咲かせている中、義圭はポケットからスマートフォンを出し、先程撮った写真を紗弥加に見せた。 「ねぇ? さっき秘密基地の前をこんな人が通ったんだけど……」 紗弥加は画像を眺める。んー? と、言った感じに首を傾げながら、義圭にスマートフォンを返した。 「村の人じゃなさそうねぇ…… こんな人が村にいたらすぐに噂になるわよ?」 「僕以外に人が入ったとして、分かるの?」 「うん、分かるよ。村人同士のネットワークって狭くて広いから、すぐに伝わるよ。よっちゃんが村にいることも村のみんな知ってるよ」 「そうなんだ…… 田舎って怖いね」 「そう…… 怖いのよ……」 それを言う紗弥加の顔は憂いを浮かべていた。  四人は大きな石段の前に辿り着いた。今朝方、紗弥加が義圭を発見(みつ)けた神社の階段前である。階段の頂上には朱鴇色の鳥居が日の光を反射し、赤々と輝いている。その前で紗弥加はハッとした。 「あ、そうだ。天狗様に出発の挨拶と今朝のお礼しないと」 義圭は首を傾げた。 「出発の挨拶は分かるけど、今朝のお礼って?」 「今朝、よっちゃんを無事に帰してくれたのは天狗様のおかげよ。だから天狗様にお礼言わないと」 三人は長い石段を登っていく。頂上の朱鴇色の鳥居をくぐる前に一旦足を止めて一礼。義圭はそれに構わずに鳥居をくぐろうとしたが、紗弥加に首根っこを掴まれてその歩を止められた。 「鳥居をくぐる時には一礼しなきゃ駄目よ」 神社の鳥居のくぐり方。神社の鳥居は、人が暮らす場所と神様がおわす神域との境目であるとされている。神域に入るときには一礼をし、敬意を称するのが鳥居をくぐる際の作法である。参拝を終えて境内を出る際にも一度向き直り一礼をするのが良いとされている。 この雨翔村においては神社の氏神様も「天狗様」となっているために、神社に入ることは神域に入ると言うよりは「天狗の棲家」に入るものとなっている。
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