三章 天狗攫い

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「田舎の忌むべき因習、おじろくおばさって知ってるかね?」 「え? なんです? ブランド名ですか?」 「ははは、始めてこの因習を聞いた時の私と同じ発想だ。簡単に説明すれば、長男のみを愛して次男以降はみんな奴隷扱いって昔の日本の田舎にあった忌むべき因習だよ。その因習を外部の家に持ち込んだ悪魔のような女がいたんだ。その女のせいで、一人の少年が完全に心を壊してしまったんだよ。他人が怖くて怖くて堪らなくて日常生活にも支障をきたすようになってね、私も匙を投げるぐらいだった」 「その子、どうなったんですか?」 「立ち直ったよ。私の力ではないけどね。今では民俗学の権威として欧州にいるよ」 「もしかして、前に話してくれた親友って……」 「そうだよ。私の元患者が唯一無二の親友だよ」 その時、桜貝が寝返りを打った。そして、パチリと目を開けた。ガバリと起き上がり、状況が確認出来ずにキョロキョロと首を動かした。 兼一の家で寝ていたはずなのに、目が覚めたら自分がいるのは秘密基地。 驚いて当然である。しかも、目の前にいるのは義圭と知らない男。更に言うなら着た覚えのない死装束を纏っていることで彼女は困惑の極みにあった。 「あの、彼女には事情は」 「彼が帰ってからにしよう。私はおろか、君ですらも役者が不足していそうだからね」 「分かった。こいつの服だったら俺の家に鞄一式置いてある」  銀男はこのたった一言で兼一と桜貝が「深い仲」であることを見抜いていた。そして、この三人が仲良し三人グループから「男と女」「余り一人」の関係に変わってしまったことさえも見抜いたのであった。 三角関係(トライアングラー)と言うのは難儀なものである。 三人同士の友情関係というものは、非常に不安定なものでちょっとしたことでも無残に崩れ去ってしまう。そこに性別の違いが発生すれば余計にである。 奇数人数の関係であると言うことは、必ず、男2女1か女2男1となる、そして大抵の場合は2が1を巡る関係となり、1は2のどちらかを選ばなければいけない、尚且、時折イレギュラーが起こり2がお互い同士で結びつくことがある。これらは必ず「余り1」が発生する、その余り1になってしまった義圭の心境の辛さは誰にも分からない。 こんな状態になってしまった上に、今の事態に巻き込まれた義圭を気遣うように肩をぽんぽんと叩いた。銀男にはそれぐらいしかしてやれることがなかった。
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