三章 天狗攫い

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「六時になりました。雨翔村役場がお知らせします。本日は靄が立ち込めておりますので、速やかな帰宅をお願いします。繰り返します……」と、村内アナウンスが入る。 「おっと、もう六時か。照明消そうか」 銀男は梯子を降り、バンガロー内の照明を全て消した。バンガロー内にある光は夕焼けの赤い光のみになった。 「ちょっと不便だけど、みんな我慢しててな? こんな夜に電気点いてると不自然に思われる場所でしょ? ここ」 三人は頷いた。桜貝は都会でしか買えないような女子向けブランドのハートマークのTシャツに膝上までのショートパンツを履いていた。渋谷にいる女子中学生と言われても違和感がないぐらいに似合っている姿である。 「この村、何時ぐらいから人通りガクッと減るかな?」 「夕方は夏野菜の収穫が終わるぐらいだから、それなりに人目はある。七時半ぐらいなら、完全に日も落ちて真っ暗だから外に出るやつなんかいねぇよ」 「よし、七時半にここに車を回そう。後は村から出るトンネルまで走って県道まで出るよ。君たち、この村の大人に対して言いたいことはあると思うけど、それは後回しだ」 三人は頷いた。そして、七時になるまで四人は息を潜めて待機する。 その間、会話はない。
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