四章 天狗の抜け穴

1/12
前へ
/137ページ
次へ

四章 天狗の抜け穴

 義圭は目を覚ました。目を見開いても見えるのは米袋の中、手は後ろ手を回され親指同士を結束バンドで結ばれており、動かすことは出来ない。 足は自由が利くものの、米袋は丈夫な麻製であるために蹴って破ることも叶わない。手も足も出ない袋のネズミ同然の状態である。 義圭は半ば自棄になり寝返りを数回打った、すると、段差から落ちた。 やはりあの礼拝堂に運ばれていたのか。安里の死体がポリバケツからぶちまけられた場所だと考えると不気味さを感じられたが、今は気にしていられない。すると、奇跡が起こった。祭壇から落ちた勢いで閉められていた米袋の口が空いたのである。義圭は芋虫のように這いながら米袋の中から外に出た。 義圭がいた場所は予想通り採掘場最奥の礼拝堂。礼拝堂の両脇に並べられた大量の白骨の窪んだ目が義圭に向けられる。  せめて手足の自由だけでもどうにかしないと…… 義圭は必死に藻掻くが結束バンドも縄も取れる気配がない。立ち上がりたいところだが、手も足も動かせない状況ではそれもままならない。壁に肩を当てて立ち上がろうとするが、支える手が動かなくては上手くいかない。  このままここで何も出来ずに朽ち果てて白骨達の仲間入りをするのはゴメンだ。死にもの狂いで礼拝堂内を這い回り立ち上がろうとするが、上手くいかない。胸と膝小僧を地面に擦りジリジリとした痛みが走るようになってきた…… もうダメか。そう思った絶体絶命の時、義圭に天啓が降りてきた。 「実は瞬間的な衝撃に弱いんだよ。結束バンドって」 銀男は結束バンドで纏めたマウスのケーブルを外すためにノートパソコンの天板で結束バンドを思い切り叩いていた。 もしかして、尾てい骨に思い切り叩けば外れるのではないだろうか。 そう考えた義圭は後ろ手の親指同士で繋がった手を持ち上げた。肩の関節が逆になる動き故に激痛が走る。持ち上げるのは15センチぐらいが限界であった。そして、尾てい骨に結束バンドを思い切り叩きつけた。 ガチャッ 鈍い音がした。肩の関節を変に曲げた音ではない。 結束バンドが外れた音である。ここから先は水を得た魚と同じようなもの。手を支えにして立ち上がり、猿轡を外した。顎部関節が痛むことから何度も何度も歯をガチガチと音が出るぐらいに噛み締める。顎の関節が安定したところで、足を結びつけていたロープを外した。多少力強い堅結びにはなっていたものの、結び目を力を込めて引っ張ることでスルリと外れた。 義圭は溜息を吐きながら祭壇に座り踝を回すと「ゴキン!」と言った関節を鳴らした後の鈍い音が聞こえてきた。足首に違和感を覚えるが歩けない程じゃない、軽くなら走ることが出来る。と、言ったコンディションであった。
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加