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一礼後、四人は石畳を踏みしめながら境内の中を歩いて行く。
その両脇には等間隔でいくつもの石像が設置されていた。普通の神社であれば狛犬であるのだが、この村においては狛犬ではなく天狗の像である。その天狗の像は手入れが毎日されているのか、野ざらしになっているにも拘らず日の光を反射し、その身を輝かせているのであった。
四人は手水舎で手を清めた。手水舎は小さな天狗の銅像を中央に置き、その足元にいる龍の口から出る作りとなっていた。こんな田舎の神社の割には極めて豪華な手水舎であることを義圭は疑問に思う。
「本当に立派な手水舎だね。俺が住んでる都会の真ん中にも神社あるけど、ここまで立派なのは中々ないよ。むしろ、水止まってるとこばっかり」
義圭がこう言った瞬間、白い上下の袴を纏った壮年の男が近づいてきた。
義圭以外の三人はその男を見て背筋をぴんとして畏まる。
「こんにちは。宮司さん」
三人は鳥居をくぐるときと同じように頭を下げて一礼。
紗弥加は何が何だか分からず、何もせずにそのままの義圭の頭を押さえて強引に礼をさせた。
「はい、おはよう」
壮年の男はにっこりと微笑み、挨拶を返した。
「秦さんの家の娘さんに、阿部さんとこの坊に、村長のとこのお嬢さんか。おや、そっちの子は秦さんの妹のお子さんでしたかな? 夏休みでずっとこの村にいるとか」
何でこの男は俺のことを知っているのだろう? 義圭は疑問に思った。
この神社に来るのは初めてではないのだが、この男に会うのは初めてであったからである。
「ほら、自己紹介」
紗弥加は義圭の肩をぐいぐいと押し、自己紹介を促した。すると、壮年の男はハッとして頭をぼりぼりと掻いた。
「まず私のことを名乗らないとね。これは失礼しました」と、言いながら壮年の男は義圭に向かって軽く頭を下げた。そして、壮年の男は自己紹介を始めた。
「私、この天狗神社の宮司をさせて貰っています。名前は…… 土生響喜(はぶ ひびき)と申します。以後、お見知り置きを」
干支が一回りも二回りもしているはずの男にしては腰が低いと言う印象を義圭は受けた。
こんな壮年の男が12歳の子供に対し、丁寧な対応をしていることに義圭は思わず畏まってしまう。
「あ…… 僕、藤衛義圭…… 12歳です…… 東京から来ました。この村は母の生まれ故郷と言うことで夏の間は毎年世話になってます」
紗弥加が義圭の自己紹介に補則を入れた。
「この子のお母さん、あたしの母の志津香の妹なんです」
「ああ『やっぱり』友美恵さんの息子さんですか。実に友美恵さんに似てる、目元の辺りなんか本当に友美恵さんと同じだ」
響喜はわしゃわしゃと大きな手で義圭の頭を撫でた。義圭はそのごつごつとした大きな手に男のたくましさと父のような優しさを感じるのであった。
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