四章 天狗の抜け穴

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「銀男さん!」 「藤衛くん!」 二人は再会を喜び、抱きしめあった後、強く手を握った。 「どうしてここに?」 銀男は予定通りに7時30分に秘密基地に戻った。だが、秘密基地は蛻の殻。 この時点で銀男は「何かあった」ことを察し、この礼拝堂に戻るに至ったのである。いるのは生贄の桜貝だと思っていたのだが、いたのは義圭だったために驚きを隠せずにいたのであった。 「お嬢さんがまた生贄にされたと思ったのだがね…… まさか君で驚いているよ」 「裏切…… られちゃいました…… ははは」 二人の衣服には新米が挟まっていた。二人は新米があるところに、足を踏み入れていない。そんな二人の共通点は桜貝を背負ったことである。 桜貝の死装束に新米が挟まっていたならば、二人の衣服にそれが挟まるのも自然である。 ならば、桜貝はどこで新米を死装束に挟めたのだろうか? 考えられることは、どこかの米農家の蔵か何かに閉じ込められたか、若しくは米袋に入れられていたということになる。 それを考えると、桜貝が寝ていた米農家だとか言う兼一の家が怪しい。おそらくは兼一の家族もグルの可能性が高い。 そうなれば、兼一は物を取りに行っている間に懐柔される可能性がある。 銀男はそこまで推理を組み立てていたのに「杞憂だろう」と、兼一を疑うことをやめた自分を恥じた。 尚、兼一の母が米袋を積んだトラックであるが…… あの中に入っていた四袋のうちの一つに桜貝は手術用の麻酔を嗅がされて入れられていた。つまり、銀男の推理は当たっていたのである。 「君にも生贄の資格があったってことだね。ロフトの下にいた二人も大胆な話をしてたもんだ」 「ええ、まぁ……」 生贄の資格。銀男はこれに関して仮説を立てた。つまり、天狗者とは…… 義圭は何やら考える銀男に尋ねた。 「今回はどうやって来たんですか? また貯水池からですか?」 天狗者について考えるのは後だ。今は脱出を優先しないと。銀男は脱出ルートの説明をし始めた。 「貯水池も、正面の入口も、車回して逃げるには相応しくないルートだからね。別ルートを採用したよ。後、天狗が倒れていた場所は誰もいなかった」 「天狗は生きてると……」 「おそらくはね」 危機が去ったわけではない。義圭は底知れぬ恐怖に震えるのであった。 「私が入ってきたルートだけどね。村の地図と、私が歩いて覚えたこの地下と照らし合わせたら意外な場所と一致してね。もしかしてと思ったら案の定だよ。そこから出てすぐの場所に車回してあるから、すぐにでも逃げられるよ」 本当にこの人がいてくれて良かった。この人がいなかったら俺は何度死んでいただろうか。義圭は銀男に心からの感謝をし、心からの信頼を覚えるのであった。 「ところで、何でニューナンブM60なんて持ってるんだい? 伯父さんの右腕があったのかい?」
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