四章 天狗の抜け穴

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まず、地下の川沿いに出ないと。礼拝堂を出て石造りの階段に足をかけた瞬間、あの音が聞こえてきた。唸るようなチェーンソーの音である、今度のチェンーソーの音は前よりも唸りが小さい。 「Et tu!」 二人が降りようとした石段の一番下には天狗がいた。照明の電流を受けたせいか体の所々が焼け焦げ、ボロボロの風体をしていた。 それにも拘らずに天狗はチェーンソーを振り上げ、走りながら階段を登ってきた。最後まであいつに命を狙われるなんて冗談じゃない。 二人は踵を返し、引き返して反対側の階段へと走った。二人の心臓はバクバクと鳴り、心底焦り始めていた、だがここで恐慌状態(パニック)となり、何も出来ずに焦ったままズタズタに引き裂かれる訳にはいかない。 二人は階段を降りきった先に見つけた物陰に隠れた。すると、天狗は二人を見失ったのかその場でキョロキョロと辺りを見回した。 「ite domum!」 天狗は気が狂ったようにチェーンソーを振り回した。石の壁や床にチェーンソーの刃が当たり、火花を飛び散らす。二人のすぐ近くで鳴り響く駆動音と石が削れる音、その二つを前に二人は恐怖し身を潜めるしか出来ない。 床にチェーンソーを掠めながら駆け抜けて行く天狗。その瞬間、階段前にスペースが出来た。再び階段を駆け上がるチャンスが訪れたのである。 二人は走って階段を登った。走って音こそ立てているが天狗は手元にあるチェーンソーの音に二人の足音をかき消されて足音には気が付かない。 これを好機として二人は一気に逃げにかかった。だが、こうしている時に油断と不運が顔を出す。銀男が階段の中腹で足を滑らせたのである。こうして足を滑らせたことで、レンガ大に切られた石を積み上げて作った階段のうちの一段が外れて落ちた。その一段は階段の一番下まで転がり落ち、真っ二つに割れた。 天狗がたまたま後ろを向いた時、落ちて割れた一段を見てしまった。そこだ! と言わんばかりに天狗は思い切り階段を登り始めた。勿論、二人の目視は完了している。 何と運の悪い! 二人は一気に階段を駆け上がり、すぐに正反対側の階段へと走り、駆け下りる。二人は階段を降りきった、天狗はまだ階段の中腹にいる。天狗がまだ階段を降りている間に、距離を出来るだけ離さなければいけない。 銀男がそう考えた瞬間、天狗は信じられない行動を取った。 なんと、階段の中腹からチェーンソーを振りかぶったままジャンプしてきたのである。二十段以上の距離を一気に飛び降りた天狗は階段の最下段の壁をチェーンソーで両断し、切り砕いた。その刃が振り下ろされる直前、銀男は義圭の襟を思い切り引いて自分の方に寄せた。 もしも、銀男が襟を引いていなかったら義圭は無慈悲なるチェーンソーの刃の露と消えていただろう。
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